不毛の『インスタントラーメン』
カップめんを食べながら、80年代のインスタントラーメンはどんなだったろう、と考えていたが、残念ながら、めぼしい商品は思い当たらなかった。
子供の頃、よく食べていたものは、定番中の定番、日清『カップヌードル』、『どん兵衛』などだ。これは調べるまでもなく、80年代以前から存在し、当時からすっかり定番として親しまれていた。同じく日清の『チキンラーメン』はもちろんインスタントラーメンにおける元祖であるから論外である。
カップ焼きそばはどうだろう、と思って日清の『UFO』を調べてみたが、こちらも76年発売であった。
どうもインスタントラーメンにおいては80年代は不毛の時代であったらしい。現在まで愛されているようなロングセラーの商品が見つからない。
逆に60年代から70年代が圧倒的にすごい。メジャーな商品は、ほぼこの時代に作り出されている。
『カップヌードル』は72年に発生した、有名な『あさま山荘事件』のエピソードが知られている。極寒の環境下で、温かい食事がとれない警察官に支給されたのが『カップヌードル』だった。日本中がテレビ中継を通じて事件の行方を固唾をのんで見守っている時、これを警察官が美味そうに食べている様子がテレビ中継で流れた。そのため、当初発売間もなかった『カップヌードル』の存在が世間に一躍知られることとなり、のちの世界的ヒットにつながったという。
80年代を経て、90年代に入ると、マルちゃんの『ホットヌードル』が登場する。「はじめてのH」という、刺激的なフレーズを使ったCMが話題になり、ヒットしたと記憶している。CM曲は大黒摩季の歌で、このCMをきっかけに大ブレイクした。そういえば、この頃はまだCM曲から新人がブレイクするという流れが存在したが、最近ではそういった例はすっかり聞かれなくなったように思う。
また、生麺を使用した革命的商品の『ラ王』も90年代に登場した。当時のサッカーのスター選手である前園真聖と、まだ若手のホープであった頃の中田英寿がCMに起用され、これもヒット。中田は今ではカリスマ的存在であるが、そこからは考えられないようなコミカルな役どころでの出演で、今見るとかなり笑える。ラ王は残念ながら生麺タイプのものは生産終了となったが、今では袋麺として販売されている。最近は『マルちゃん製麺』など技術革新によって袋麺が盛り返しているのも、なかなか面白い。
あとは、エースコックの『スーパーカップ』も大容量を売りにしてロングセラーとなった。CMは若者をターゲットにしたものだったと思うが、そのあたりが食欲旺盛な学生などに響いたのだろう。
では80年代には、今に至らずとも当時それなりに人気を博した商品はなかったのか。
記憶を手繰り寄せると、思い浮かんだのが、まず『タコヤキラーメン』であった。
『タコヤキラーメン』とは、その名の通り、具材にたこ焼きが入ったカップめんである。その時人気だった女子プロレスラーのダンプ松本がCMに出演していた記憶があるが、彼女のインパクトと、たこ焼きが入っているという商品のインパクトから、当時はそれなりに話題になったのではないかと思う。記憶に残っている人も多いはずだ。
俺もねだって買ってもらったのだが、まあ、すぐに店頭から見かけなくなったのも頷ける残念な味だった。
たこ焼きは今で言う真空パックのような個包装になっていたと思う。その個包装を破って乾麺の上に置く。そのあと一緒にお湯を注ぐタイプだったか、出来上がったラーメンに後から乗せるタイプだったか、記憶ははっきりしないが、べちゃっとしていて、正直いって食えたものではなかった。たこ焼きというより、ショウガの利いた「すいとん」のような味だった記憶がある。
それにしても、なぜ当時そんな無謀なチャレンジをしたのだろうか? メーカーはまさかの最大手、日清であった。
そしてもう一つは、そこそこ長く売っていたと思われる『ケンちゃんラーメン』である。たしかオマケつきの子供向け商品だった気がする。
ケンちゃんとは、言わずと知れた「志村けん」のことである。当時の志村けんは『加トちゃんケンちゃんごきげんテレビ』や『だいじょうぶだぁ』をやっていた頃ではなかっただろうか。子供たちからの人気は絶大だったため、けっこう売れていたと思う。出演している番組でも、よく「いつになってもCMが新発売のままだ」というのがネタにされていた。
実は、俺は食べたことがないのだが、俺からすれば、食事としては量が少なく、おやつとしてはビックリマンチョコと比べて高価であり、極めて中途半端な存在だった。
あと、名前だけは知っていて、実物を知らないものが『青春という名のラーメン』シリーズと『楊夫人』。どちらもCMが話題になった、と、のちの回顧番組などで目にするのだが、さっぱり当時の事を覚えていない。かなりのテレビっ子だったはずの俺が分からないのだから、田舎では流れないCMだったのか、あるいは、子供心には響かないCMだったのか。
しかし、最近のカップめんで驚くのは、『UFO』などの焼きそばの湯切りが進化したことだ。以前は端っこにある小さなツメを開いて、チョロチョロと熱湯を捨てていて、下手をすると中身がシンクにまとめて落ちることもあった。今はフィルムを剥がして、広い面から一気にお湯を捨てられるため、麺を無駄にする危険性がずっと少なくなったし、なりより楽ちんで早い。
今の便利なパッケージに慣れた若い世代には、ピンとこない話かも知れないが……。
「『ぺヤング焼きそば』も湯切りは進化してんのかね」
「どうでしょう。あんまり気にしてないですけど」
「西日本じゃ売ってなかったから、昔を知らないんだよな」
「え? 『ぺヤング』が売ってないって、西日本にはカップ焼きそばがないんですか?」
「だから『UFO』の話してたろうが。カップ焼きそばと言えば『UFO』なんだよ」
「またまた、そんなわけないでしょう。カップ焼きそばと言えば『ぺヤング』ですよ」
「……これだから関東人は」