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『東京ディズニーランド』


 『東京ディズニーランド』のオープンは1983年だという。

 恐らく開園当時は様々な報道がなされていたのだろうが、不思議とそうした記憶はまったくなく、そのためずっと昔からあったような錯覚にとらわれてしまう。

 俺がはじめてディズニーランドを訪れたのは、オープンから何年も経ってからのことだったのだが、予備知識などまったくなく、普通の遊園地に連れて行ってもらうような感覚だった。


 思えば、80年代はまだ遊園地がさまざまな所にたくさんあった。景気の変動はあったにせよ、概ね経済は成長にむかっていて、俺のような子供でさえ、このさき日本はどんどん豊かになっていくのだと思っていたのだから、やはり当時の日本は豊かだったのだろう。バブル経済が崩壊すると、全国各地の遊園地などのアミューズメント施設がぞくぞくと閉鎖されていった。俺にとって思い出深い遊園地は、もうひとつとして残っていない。


 遊園地の乗り物にブームがあるのかは分からないが、遊園地の目玉といえば、なんといってもジェットコースターに代表される絶叫系アトラクションで、当時もさらなるスリルを追及するかのように、ぞくぞくと絶叫マシーンが開発されていったように思う。今ではメジャーな一回転するようなコースターも、当時はまだ珍しいほうだった。

 そういう訳だから、遊園地に行く事と絶叫マシーンに乗ることはイコールであり、いかに怖いジェットコースターがあるか、ということが遊園地の価値を左右すると言っても過言ではなかったと思う。今でも富士急ハイランドなどは、『FUJIYAMA』などの絶叫系マシーンを次々に開発し、それが最大のウリになっている。


 ところが、ディズニーランドは違っていた。入場してマップを見てみても、まともにジェットコースターと呼べるのは『ビッグサンダーマウンテン』と、『スペースマウンテン』くらいしかなく、そのどちらも大して怖そうではなかったため、正直なところ、俺は『ディズニーランド』に対して、かなりガッカリした。

 そんな俺を尻目に、連れて行ってくれた親がはじめに行こうと言ったのは『カリブの海賊』だった。

 どれだけ多くの人が理解できるか自信がないが、当時(?)海賊が乗る船が大きく揺れるという絶叫系の乗り物があり、それを『バイキング』と呼んでいた。俺は『カリブの海賊』とはその『バイキング』のようなものなのだろう、と思ったのだが、マップを見るに身長制限がない。総じて絶叫系には身長制限が設けられているから、つまり、身長制限がないということは絶叫系ではないことを意味する。

 俺は不満の声をあげながらも、しぶしぶ家族に従った。

 今でこそ『カリブの海賊』は高い人気を誇るが、当時はそれほどの人気はなかったように思う。それも遊園地は絶叫系あってこそ、という感覚によるものなのだろう。つまり絶叫でもなんでもない『カリブの海賊』は平凡な存在だった。

 だが俺はこのなんでもないような『カリブの海賊』が感動だった。こんなに楽しいアトラクションがあるのか、と。革命的でさえあった。

 ここであえて『カリブの海賊』の魅力をくどくど言うまでもないとは思うが、海賊たちや家々など、ひとつひとつが実に精巧にリアルにつくられており、本当にカリブ海にいるかのような徹底された世界観を作り出している。今までに経験してきた遊園地の乗り物など子供だましに過ぎない。目指しているところといい、その完成度といい、根本的にモノがまるで違うのだ。

 徹底された世界観。今では『ディズニーランド』を語るうえで必ず出てくる当たり前のキーワードであるが、まさにそれを体言していたのが、俺にとってはこの『カリブの海賊』だった。


 あと忘れてならないのはトイレである。今のショッピングモールなどのトイレは非常に清潔で、それにすっかり慣れてしまっているが、昔のトイレと言えば、もっとずっと汚かった。特に人が集まるような場所のトイレは汚れやすく、失礼ながら今で例えるならば、少し古いホームセンターのトイレ(決まって入り口の外に設置されている)に近しいかも知れない。

 そんな時代の『ディズニーランド』のトイレは、いつ入っても綺麗だということで非常に有名だったらしい。何度か話に出ている、本来アホであるはずの俺の親でさえそれを知っていた。

 それから二十年が経ち、俺は久しぶりに『ディズニーランド』を訪れた。


「あれ?知らない場所がある!」


――トゥーンタウン。


「何であの人たち横入りしてんの!?」


――ファストパス。


「キャプテンEO、終わったって聞いてたけど、まだやってんじゃん」


――マイケル追悼。


 そして『カリブの海賊』。


「あ! 誰だっけ、あれ。あんなの昔いたっけ? なんて名前だっけなー」


――ジャック・スパロウ。


 そして、トイレ。


「わー、やっぱりキレ…………普通だな」


 時間の経過をひしひしと感じる。

 当たり前ではあるが、当時のような新鮮さは、さすがになくなっていた。

 だが、これはただ俺が年をとっただけではない。世の中が『ディズニーランド』に近づいたのだ。いつ行っても綺麗なトイレなど、もはや常識である。

 精巧な造作物も、大型ショッピングモールに展示されていることもあり、やはりもう驚くことはなくなった。

 つまり、日常の基準が『ディズニーランド』になってしまったのだ。『夢の国』というが、果たして夢は叶ったのか、はたまた失ったのか。




「まあ、子供の頃に感じたまま、ってわけにはいかないでしょうね」


「子供の頃は作り物でも、生きてるみたい! って、思えたんだがなあ」


「でもスタッフのレベルは相変わらず高いですよね」


「いや、ジャングルクルーズの兄ちゃん……べしゃりは俺の方がうまいかも」


「……口下手のくせに」




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