はじめての『クソゲー』
最近はネットでニュースを知ることが増えてきた。とくにレアなサブカルネタなどは顕著なのだが、たまたま目にしたニュースにちょっと驚いたものがあった。なんとあの伝説のゲーム『カラテカ』がリメイクされるというのだ。なぜ『カラテカ』なんだ、と思いながら、確かに今でもカルト的な人気があるとは聞いていたので、そういう声に応えてのことなのだろうと思っていたが、記事を読むとどうやらそういう事らしい。なんというか、脱力感に似た笑いが込み上げてくる。
『カラテカ』はかつてファミコンで発売されたソフトだが、実は海外で制作されたものが移植されたもので、その独特な世界観が多くの人の記憶に強烈に残っている、と思われる。多分。
内容はタイトル通り、空手家を操作し、突きと蹴りを駆使してせまりくる敵の刺客と戦っていくというアクションゲーム。バトルは一対一なので、考えようによっては後の格闘ゲームの先駆けと言っていい……のだろうか。とにかく一見して奇抜な世界観のゲームだった。
その奇妙な世界観を端的に表すのは「礼」の存在だろう。ゲームをスタートさせると、少し悲しげな短い音楽が流れ、そこから主人公を操作できるようになる。なおBGMは波の音。これだけでも当時のゲームではかなり異色だった。基本は右スクロールであり、テッコテッコと独特な音を立てて右に進んでいくと、道着に仮面姿の妙な奴が突っ立って待ち構えている。こんな変な奴、一目で敵だと分かる。それで、その敵の目の前へと迫ってこっちも立ち止まるのだが、立ち止まった状態でBボタン(だったっけ?)を押すと、互いに「礼」をするのだ。さあ、これで戦闘開始かと思いきや、もう一度Bボタンを押してみると「礼」。押す限りいつまでも丁寧に礼をし続ける。あまりにシュール。
「ぎゃーはは! いらねーだろ、礼」
初めてこのゲームに触れた俺は、あまりの馬鹿馬鹿しさに大爆笑した。今にして思えば、「礼」はいかにも外国人が考えそうなシステムではある。
もうひとつ、この『カラテカ』が特徴的なのが「圧倒的な難易度」だ。
前述の敵と向き合った状態で十字キーの下を押すと構えをとる。そこから戦闘開始となり、突きやら蹴りやらを駆使して敵の体力をなくしてしまえばこっちの勝ち。この十字キーの下を押して構えをとるのが重要で、それをせずに敵に触れたりすれば即死。構えていない状態で敵の攻撃を受けたら即死。このゲームをやった人ならきっと経験があるはず。さらに右へ右へと進んでいき、次々と現れる敵を倒していく、ということなのだが、はっきり言ってこれがものすごく難しい。このゲームには防御がなく、こっちの一方的な消耗戦になるので次々に現れる敵を打ち破るだけでもなかなかに厳しい戦いとなるのだ。そして、なんとか頑張って進んだとしても、最大の関門が「罠」である。ある程度進むと、途中でいかにもうさんくさい門が登場し、その下を不用意に通れば罠が発動するのである。いきなり槍みたいなシャッターが落下してきて、触れれば一撃にてゲームオーバー。切り抜けるには、どうやらコツがあるらしいのだが、俺は結局それを掴むことができず、どうしてもその先に進むことができなかった。
こうやって振り返ってみると意外に面白そうに見える『カラテカ』だが、当時の評価は酷いものだった。同じ年に発売されたタイトルを調べてみるとなんとなく分かる(分かる人には)。抜粋だが、『イーアルカンフー』、『忍者くん』、『ディグダグ』、『レッキングクルー』、来ました!『スパルタンX』、『ハイパーオリンピック』、『スターフォース』、『エレベーターアクション』、『ドアドア』、『ドルアーガの塔』、『バトルシティ』、名作中の名作『スーパーマリオブラザーズ』、個人的になぜか好き『プーヤン』、『チャレンジャー』、『キン肉マン マッスルタッグマッチ』、『忍者じゃじゃ丸くん』、『いっき』、『ポートピア連続殺人事件』……いやあ、インターネットって本当に調べものに便利!
見てみると、この年は後に語り継がれる名作が多い。そんな中で『カラテカ』はションボリ具合になかなかパンチが利いている。これを掴まされた友達は気の毒だったが、仲間内で遊んでいるうち妙に味があるということで、しだいに評判のネタになった。この感覚、今でいう「クソゲー」に対する反応に近いものがある。当時そういう「クソゲー」という言葉があったかどうか記憶にないが、面白くて当たり前のはずのゲームにもつまらないものが存在するという事実に、はじめて気づかされたタイトルがこの『カラテカ』だった。
ちなみにこの後、別の友達がこれまた伝説のクソゲー、『ボコスカウォーズ』を買うことによって、どっちがよりつまらないか、という論争にもなったのだった。
「先輩が買ったクソゲーっていったら何でした?」
「そうだな、とりあえず『オバケのQ太郎ワンワンパニック』と、『未来神話ジャーヴァス』だな。俺は『カラテカ』と『ボコスカ』はけっこう好きな方だった。『ボコスカ』は歌もまだ歌えるもんな」
「なんですか、歌って?」
「すすめーすすめーものどーもー、じゃまなーてきをーけちらーせー……」
「分かりました、もういいです」