表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/29

『黒いアイス』

 

 ある夏、真っ黒なアイスキャンディーが発売された。

 それは『クロキュラー』というアイスで、食べると舌が真っ黒になった。ただ、正確には青っぽい色だった気がする。

 パッケージには吸血鬼ドラキュラのイラストが描かれ、なんともおどろおどろしい雰囲気だった。テレビCMもそうしたホラーテイストを全面に出したもので、実にインパクトがあって、一目見て欲しくなった。

 俺は親にねだって買ってもらって、早速その黒いアイスを食べ、大喜びで親に舌見せた。親は声をあげて驚いていた。子供としては、もうこれで大満足だ。ただ、親に、

「一生その色になったらどうするの!?」

 などと言われ、ちょっと不安になったりもしたが。子供というのは、こうした大人の脅しには弱かったりする。もちろん、しばらく経つと色が落ち、いつもと変わらない舌の色になった。

 この日以来、俺のアイスはいつも『クロキュラー』になった。毎日、舌を黒くしては、友達や大人に見せて遊んでいた。いつか大きめな公園に行ったときなど、幾人もの子供たちが黒い舌を見せ合っていたのを見た事があるから、当時けっこう流行ったんじゃないだろうか。

 アイスというのは、大体が夏の間に売り出されるから、気候が涼しくなってくると、いつしか『クロキュラー』の事は忘れて、違う菓子を買うようになった。また『クロキュラー』を目にするのは、翌年の夏だったが、さらにその次の夏には、ぱったりと店頭で見かけなくなった。つまりは、販売期間は二年間で、しかも夏限定というやたら短い間だったんじゃないか。なくなったのは、売れなくなったからなのか、健康を気にする親たちが禁止を求めたのか。どうであれ、今でも夏になると、どうにもあの『クロキュラー』が懐かしくなる。


 ところで、その『クロキュラー』には姉妹品で『アカキュラー』があったのだが、そっちは名前の通り舌が赤くなった。だが、もともと舌は赤いので、あんまり色が変わった気がせず、俺は好きじゃなかった。ところが、『クロキュラー』を覚えておらず、いまいちな『アカキュラー』しか覚えていないという人がいた。その人には、きっと何か『アカキュラー』にまつわる思い出深い出来事があったんだろう。

 



「先輩、味はどうだったんですか?」


「……覚えてない」



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ