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『好き嫌い』




 好き嫌いがない、と前に言ったが、小さい頃にはそれなりにあった。

 まず、ニンジンが食べられなかったし、レバーは大嫌いだった。ニンジンは比較的すぐに克服できたが、レバーは大人になるまでまったく食べられなかった。

 そんな子供の頃の嫌いなもののなかに、寿司があった。

 いや、厳密に言えば、寿司は食べられないことはない。ただ、好き好んで食べたいと思わなかったのだ。

 あまり外食する習慣のない我が家だったが、ときどき、母親が外で有名チェーン店の寿司を買ってくることがあった。

「今日のお昼はお寿司」

 と聞けば、俺は必ず、えー!? と残念な声をあげ、空腹のため仕方なく寿司を食べたものだった。

 ここまで聞けば、普通の人ならば、生魚が嫌いだったのだろう、と思うかも知れない。だが、それはハズレである。刺身は大好きで、青魚も、貝も、エビ、イカ、タコなど、嫌いなものはまったくない。

 実は俺の寿司嫌いには訳があった。 

 母が買ってくる寿司の種類が決まってたのだ。それは、海苔巻きと、かっぱ巻き、新香巻き、そして稲荷であった。そして、寿司と言えば、それしか存在しないのだと信じ込まされていた。

 ある日、ついにその他の種類の寿司、つまり『握り』が存在することを知った俺は、その事を母に告げた。なぜ、他の種類の寿司を買ってこないのか? と。母は舌打ちでもしそうな顔をして言った。

「バレたか。だって高いんだもん」

 俺は子供だったが、あきれてものも言えなかった。

 母が俺を騙していたのは、まだある。

 俺は天ぷらも嫌いだった。理由は寿司と同じで、いつも決まった種類だけが出ていたからだ。すなわち、サツマイモ、タマネギとゴボウのかきあげ、以上。

 そいつを、なんとウスターソースをかけて食べるのだ。これは後年、多くの人から気持ち悪がられた。普通は天つゆにつけて食べるのだ、と。そして、もっと色んな食材を天ぷらにするのだ、と。その事を母に言うと、

「えー、だって作るの面倒くさいもん」

 面倒くさいとかじゃねえ! と俺は叫んだかも知れない。

 ともかく、大人になってからは、俺は絶対にイモの天ぷらを食わない、と心に決めている。また、絶対にウスターソースは使わない、と決心した。

 それくらい、俺のトラウマとなった。

 



「先輩、ひょっとして、貧乏だったんじゃないですか?」


「ああ、なるほど。そうか、そうだったのかも知れん。あれは生活の知恵だったのか。だとすれば合点がいくな」

 

「服は表だけで、後ろは丸裸だったとか?」


「俺は『びんぼっちゃま』じゃない!」




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