『転校生』
特に80年代とは関係がないのだが、どんな田舎にも転校ということはある。
俺は幸いにして、なのかは分からないが、一度も転校したことはない。ただ、身の回りでは何人もの転校生を見送っている。それ自体は珍しいことではないだろう。だが、思い起こしてみると、どうも特別仲の良かった子ばかりが転校していくことに、最近気付いた。
はじめに転校していったのは、幼なじみのショウコちゃんだった。彼女とは親同士が友達だったこともあって、小さい頃から二人で良く遊んでいた。彼女は小学校にあがるときに、警察官だったお父さんの転勤のため、違う町に引っ越していった。
次に転校していったのは、小学一年生の時の、リカちゃんと、シノブちゃんだった。
リカちゃんは、くるくるとした柔らかい髪が印象的な子だった。一年生も終わりごろの席替えで彼女と隣になった。そこで、男の子には良くある事だと思うが、俺は彼女の注意を引こうとしてちょっかいを出し、泣かせてしまった。おとなしい彼女は、いじめられたと思ったらしい。すぐさま先生が怖い顔をしてすっ飛んできて、俺は叱られ、どうして意地悪をしたのかを問いただされた。俺が素直に、仲良くしたかったのだと伝えると、彼女はすっかり許してくれ、それからは仲良しになった。だが、次の月には彼女の転校が知らされた。
「せっかく仲良しになれたのにね」
彼女が残念そうに言った。
「あのとき、意地悪なことをしてごめんね」
俺ははじめに泣かせたことを謝った。彼女は首を振った。
「あれがあったから、仲良しになれたかも知れないもん」
その会話を聞いていた先生が、にこやかに笑っていた。
シノブちゃんは、俺の家の近所に住んでいたらしいのだが、不思議なことに、小さい頃に遊んだことはまったくなく、彼女の存在を知ったのは小学校に上がってからだった。今にして思えば、彼女の家は、近所づきあいをしない、田舎にしては少し変わった家庭だったのかも知れない。同じ町内に住んでいるのだから、町内会なんかでも顔を見る機会があったはずなのに、それはまったくなかった。だが、彼女自身は明るくて、栗色の髪が印象的な、可愛らしい子だった。ある時のクラスの休み時間のこと。彼女とおしゃべりしていると、突然こう言った。
「ハタチになったら、結婚して」
もちろん俺は耳を疑った。話の流れからして、どう考えてもそうはつながらない内容だったはずだ。
「ハタチって、二十歳のこと? オレとシノブちゃんが結婚するの?」
「そうだよ。私のパパもママも、ハタチで結婚したんだって」
どう答えていいか分からなかった俺は、とりあえず頷いた。ハタチなんて、ずっとずっと先の話だ。
「じゃあ、ハタチになったらね」
「うん。約束ね」
今考えても、どうしてそんな事を急に彼女が言ったのか、さっぱり分からない。
彼女が転校すると知ったとき、あの約束のことを覚えているか聞いたが、彼女は恥ずかしそうに笑っていただけだったから、何かの冗談だったのだろうか。
「先輩、えらくモテモテですね。女の子との思い出ばっかじゃないですか」
「うーん。そういえば女の子が多いな。男ともだちの話もあるんだけどな」
「続くんですか」
「そのうちな」