深夜のお夜食
「やあ。楽しそうだね」
お兄様が声をかけると、男たちが一斉にこちらを向いた。
「あァ? なんだテメェ、モデル気取りか?」
「その女、連れ? ……へえ、カワイイじゃん。俺らに貸せよ」
リーダー格の男が、ニヤニヤしながら近づいてくる。 お兄様の胸ぐらを掴もうと手を伸ばす。
その瞬間。 お兄様の手が、目にも止まらぬ速さで男の手首を掴んでいた。
「……え?」
男が声を上げる間もなく、お兄様はそのまま彼を喫煙所の裏――照明の届かない闇の中へと引きずり込んだ。 あまりに自然な動きで、仲間たちは何が起きたのか理解できていない。
「お、おい! 何処行くんだよ!」
仲間たちが追いかけようとしたけれど、あたしが通せんぼをした。
「だめよ。お兄様はいま、お食事中だから」
「はあ? なんだこのガキ……」
バキッ。グシャッ。
闇の中から、湿った破砕音が聞こえた。 そして、ジュルッ……という、何かをすする音。
「……ぎ、あ……」
微かな呻き声がして、すぐに静かになった。 男たちの顔色がサッと変わる。
「おい……タカシ? どうした?」
闇の中から、お兄様が出てきた。 口元をハンカチで拭いながら。 そのハンカチは、鮮やかな赤色に染まっていた。
「……少し筋っぽかったけれど、元気のいい味だったよ」
お兄様は微笑んだ。 その足元に、何かが転がってきた。 リーダー格の男が履いていた、派手なスニーカーだ。 足首から先が入ったままで。
「ヒッ……!?」
「う、うわあああああ!!」
男たちが悲鳴を上げて逃げ出そうとする。 でも、あたしは逃がさない。
「あーあ。デザートも逃げちゃう」
あたしは、一番近くにいた男の背中に飛びついた。 おんぶをするように。 そして、その耳元で囁いた。
「いただきまーす」
ガブッ。
頸動脈に牙を突き立てる。 熱いスープが口の中に溢れる。 SAの喧騒、トラックの走行音がかき消してくれるから、誰にも気づかれない。 あたしたちは、衆人環視の中で堂々と「お夜食」を楽しんだ。
数分後。 あたしたちは、何事もなかったように車に戻った。
お腹はいっぱい。肌ツヤも良くなった気がする。 喫煙所の裏には、酔い潰れて寝ているように見える(二度と起きない)若者が数人、転がっているだけだ。
「出そうか、犬飼さん」
「……は、はい」
犬飼は何も聞かずにエンジンをかけた。 車は再び、夜のハイウェイへと滑り出す。




