表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
城の世璃  作者: 秦江湖


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

44/52

星の降る道

 国道から、高速道路へ。 車は東名高速を東へとひた走る。 深夜の高速道路は、まるで血管の中を流れる赤血球のように、赤いテールランプが連なっていた。



「綺麗だね、お兄様」


「ああ。みんな、どこへ行くんだろうね」



 お兄様は、流れる景色を愛おしそうに眺めていた。 車内には、ジャズのCDが静かに流れている。 密室。 時速100キロで移動する鉄の箱。 ここには、あたしたちを縛るものは何もない。


「ねえ、犬飼さん。お腹空かない?」


あたしが尋ねると、犬飼はビクリと肩を震わせた。


「い、いえ……私は大丈夫です」


「あたしたちは空いたの。  ……次のサービスエリアで、休憩しましょう」


「犬飼さん。停めてくれないか」



お兄様が言うと、犬飼は無言でウィンカーを出した。 『海老名SA 2km』の標識が見える。




深夜のサービスエリアは、独特の空気に満ちていた。 大型トラックのアイドリング音。 休憩する長距離ドライバーたちの紫煙。 修学旅行生のような若者の集団。 眠らない光の中で、人々がゾンビのように彷徨っている。



「降りようか、世璃」



あたしたちは車を降りた。 お兄様は、ロングコートの襟を立て、帽子を目深に被っている。 あたしは、那美の白いワンピースの上に、カーディガンを羽織った。



自動販売機の明かりに群がる蛾のように、あたしたちは人混みの中へ歩いていく。 すれ違う人々が、ギョッとして振り返る。 お兄様の顔立ちが美しすぎるからか、それとも、隠しきれない「捕食者」の気配を感じ取ったからか。



「……いい匂いがする」



 お兄様が鼻をひくつかせた。 焼きそばやラーメンの匂いじゃない。 疲労、焦燥、そしてドロドロした欲求不満の匂い。それと同時に、凄まじい「騒音」が押し寄せてきた。

 

 耳に聞こえる音じゃない。何百人もの人間が放つ、ドロドロした思考のノイズだ。



 『眠い』『腹減った』『あいつムカつく』『死にたい』  



 無数の欲望が、電波のように空気を震わせている。静寂を愛するあたしたちにとって、それは頭痛がするほどの公害だった。  お兄様が、不快そうに眉間のしわを揉む。



「……うるさいね。都会の人間は、頭の中まで騒々しい」


 「うん。耳を塞ぎたくなっちゃう」


 「でも、これだけうるさいということは、それだけ『生命力カロリー』が溢れているということだ。  ……少し、間引いてあげないと。静かな夜を取り戻すために」  



お兄様の目に、冷酷な光が宿る。それは騒音に悩む住人の目ではなく、増えすぎた害虫を駆除しようとする管理者の目だった。



「あそこのベンチ。……質の悪そうなのがいるね」


お兄様の視線の先。 喫煙所の近くに、改造車に乗った数人の男たちがたむろしていた。 金髪にジャージ姿。大声で笑いながら、通りがかる女性に野次を飛ばしている。



「おい姉ちゃん! 一人? 俺らと遊ばない?」


「無視すんなよブス!」



下品な笑い声。 お兄様は、ふっと目を細めた。


「……マナーがなってないな。  公共の場では、静かにしないと」



お兄様が、彼らの方へ歩き出した。 あたしも、スキップをしてついていく。 犬飼だけが、遠くの柱の陰で「また始まった……」と頭を抱えているのが見えた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ