死肉のダンス
路地裏の宴は、まだ続いていた。
お兄様は、喉笛を食い破って絶命寸前の男を、乱暴に立たせた。
男の足はガクガクと震え、自力では立てない。 お兄様はそれを、強引に抱き寄せた。
「音楽がないね」
お兄様は、口元の血を舐めとりながら呟いた。 そして、低い声でハミングを始めた。
『美しく青きドナウ』。
優雅なワルツの旋律が、生ゴミと血の臭いが充満する路地裏に響く。
「さあ、ステップを踏んで」
お兄様が男の手首を掴み、くるりと回した。 男の首が、グラリと頼りなく揺れる。 瞳孔が開いた目は、虚空を見つめたままだ。
ズザッ、ズザッ。
男の靴がアスファルトを引きずられる音が、奇妙なリズムを刻む。
お兄様は、その「死にかけの人形」をパートナーにして、水たまりの上を滑るように踊り始めた。
ブンッ! 遠心力で、男の傷口から血が撒き散らされる。 赤い飛沫が、ネオンの光を受けて宝石のように輝く。
「あはは! 素敵、お兄様!」
それを見ていたあたしは、手を叩いて喜んだ。
楽しそう。あたしもやりたい。
あたしは、足元に転がっている、さっき足を折った獲物の襟首を掴んで、引きずり起こした。
「ねえ、お兄様が踊ってるの。 あたしたちも踊りましょう?」
「ひ、ひぃ……あ、足が……」
「甘えないで。リードしてあげるから」
あたしは男の両脇に腕を差し入れ、無理やり持ち上げた。 男の折れた足が、あらぬ方向に曲がったままブラブラと揺れる。
ターン、タタ、ターン♪
あたしは男を振り回して回転した。 重たい。でも、それがいい。 命の重さを感じながら踊るのは、最高の贅沢だ。
「ギャアアアアア!!」
男が激痛に悲鳴を上げる。 それが、あたしたちのワルツの伴奏になった。
雨の路地裏。 二体の怪物と、二体の肉人形が、狂った舞踏会を繰り広げる。
壁に映る影は、まるで四人の人間が仲良く踊っているように見えたけれど、その足元は血の海だった。




