配信者グループ・タクヤ
「ここが例の玄関でーす! 1年前に両親が首チョンパされた現場ですね~。 壁とかにまだ血の跡があるかも? 探してみましょう!」
俺はスマホのライトを照らしながら、テンション高く喋り続けた。 コメント欄が加速する。閲覧数はすでに3000人を超えている。
美味しいネタだ。 鍵のかかっていないドアを蹴り開け、俺たちは屋敷の中へと侵入した。
「うわ、臭っ!」
後ろについてきたミナが鼻をつまむ。
「なんか、カビっていうか……鉄? みたいな臭いしない?」
「それが霊臭ってやつじゃね? ヤバい、俺マジで見えてきたかも」
仲間のケンジとダイスケが、ふざけて笑い合う。 俺はズカズカと廊下を進んだ。 狙いはリビングだ。そこが一番「出る」らしいからな。
「お邪魔しまーす! 幽霊さーん、いますかー?」
俺は大声で叫んだ。 静まり返った屋敷に、俺の声が虚しく反響する。 なんだ、誰もいないじゃん。つまんねーの。
俺が舌打ちをして、リビングのドアに手をかけようとした、その時だった。
ヒュッ。
風を切る音がした。
次の瞬間、先頭を歩いていたダイスケの姿が消えた。
「……え?」
俺は立ち止まった。 今、横にいたはずだ。 なのに、いない。 床にも、廊下の先にも。
「おい、ダイスケ? どこ行った? ビビらせんなよ」
ケンジが震える声で呼ぶ。 ポタッ。 天井から、何かが落ちてきた。 赤い液体。 俺のスマホの画面に落ちて、ジュワッと滲む。
俺はおそるおそる、ライトを天井に向けた。
「ひッ……!?」
天井の梁に、ダイスケが張り付いていた。 いや、突き刺さっていた。 ダイスケの胸に、5本の鋭い杭のようなものが深々と突き刺さり、彼を天井に縫い付けているのだ。
ダイスケは白目を剥いて、手足をブラブラさせている。
即死だ。
そして、その傍らに、影があった。 天井にヤモリのように張り付いている、人型の影。
影が、首をコロンと回して、俺たちを見下ろした。 光る目。 裂けた口。
『……土足だよ』
低い声が降ってきた。
人間じゃない。これは、人間じゃない。
『僕の城を、汚すな』
影が落下してきた。 ドンッ!! 着地の衝撃で、床板が割れる。 目の前に現れたのは、ボロボロの服を着た、背の高い男だった。 片足だけが異様に太く、ドス黒く脈打っている。
「う、うわあぁぁぁぁ!!」
俺は悲鳴を上げて逃げ出した。 配信? 知るか! ミナとケンジも、我先にと玄関へ走る。
だが、逃げられるわけがなかった。 背後で、グチャッ、という湿った音がした。
振り返ると、ケンジが壁にめり込んでいた。
男が、あのおぞましい左足で、ケンジをサッカーボールのように蹴り飛ばしたのだ。
ケンジの身体はくの字に折れ、口から内臓を吐き出して動かなくなった。
「いやぁぁぁ! 助けてぇ!」
ミナが腰を抜かして這いつくばる。 男はゆっくりと近づいていく。 楽しんでいる。俺たちの恐怖を、味わっている。
「……いい匂いだ」
男は鼻をひくつかせた。
「さっきまでの君たちは、腐った生ゴミみたいな悪臭を放っていたけれど、今は違う。恐怖で熟成されて、芳醇なスパイスの香りがする」
男は、うっとりと目を細めた。
恐怖。絶望。後悔。
それらが混ざり合い、脳内で極上のカクテルが精製されているのが、手にとるようにわかるのだ。
「泣かないで。せっかくの風味が落ちてしまう」
男は汚れた手を伸ばし、ミナの頬を伝う涙を指先で拭った。そして、その指を口に含み、テイスティングするように舌の上で転がした。
「……うん。塩辛いけれど、悪くない。メインディッシュの前の食前酒にはぴったりだ」
男がミナの髪を掴み、軽々と持ち上げた。 ミナの足が宙を掻く。
「静かにしてくれるかい?」
男の指先――黒く尖った爪が、ミナの喉元に食い込む。
ブチッ。
雑草を引き抜くような軽い音。
ミナの声が途切れ、首がだらりと垂れ下がった。
俺は玄関にたどり着いた。 ドアノブを回す。開かない。 いつの間にか、鍵がかかっている。 さっき蹴り開けたはずなのに。
「……どこへ行くんだい?」
耳元で声がした。 いつの間に。 俺はゆっくりと振り返った。 目の前に、男の顔があった。 整った美しい顔立ち。でも、口元は血で真っ赤に染まり、瞳は爬虫類のように縦に裂けている。
「まだ、『お掃除』が終わっていないよ」
男が笑った。 俺の視界が、男の大きく開かれた口の中の闇に吸い込まれていく。 ああ、これが「化け物屋敷」の正体か。 幽霊なんて可愛いもんじゃない。 ここには、生きた悪魔が住んでいるんだ。
ガブッ。




