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城の世璃  作者: 秦江湖


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33/52

配信者グループ・タクヤ

「ここが例の玄関でーす!  1年前に両親が首チョンパされた現場ですね~。  壁とかにまだ血の跡があるかも? 探してみましょう!」



 俺はスマホのライトを照らしながら、テンション高く喋り続けた。  コメント欄が加速する。閲覧数はすでに3000人を超えている。


 美味しいネタだ。  鍵のかかっていないドアを蹴り開け、俺たちは屋敷の中へと侵入した。



「うわ、臭っ!」


 後ろについてきたミナが鼻をつまむ。


「なんか、カビっていうか……鉄? みたいな臭いしない?」


「それが霊臭ってやつじゃね? ヤバい、俺マジで見えてきたかも」



 仲間のケンジとダイスケが、ふざけて笑い合う。  俺はズカズカと廊下を進んだ。  狙いはリビングだ。そこが一番「出る」らしいからな。



「お邪魔しまーす! 幽霊さーん、いますかー?」


 俺は大声で叫んだ。  静まり返った屋敷に、俺の声が虚しく反響する。  なんだ、誰もいないじゃん。つまんねーの。


 俺が舌打ちをして、リビングのドアに手をかけようとした、その時だった。

 ヒュッ。

 風を切る音がした。


 次の瞬間、先頭を歩いていたダイスケの姿が消えた。


「……え?」


 俺は立ち止まった。  今、横にいたはずだ。  なのに、いない。  床にも、廊下の先にも。



「おい、ダイスケ? どこ行った? ビビらせんなよ」



 ケンジが震える声で呼ぶ。  ポタッ。  天井から、何かが落ちてきた。  赤い液体。  俺のスマホの画面に落ちて、ジュワッと滲む。


 俺はおそるおそる、ライトを天井に向けた。


「ひッ……!?」


 天井の梁に、ダイスケが張り付いていた。  いや、突き刺さっていた。  ダイスケの胸に、5本の鋭い杭のようなものが深々と突き刺さり、彼を天井に縫い付けているのだ。


 ダイスケは白目を剥いて、手足をブラブラさせている。


 即死だ。


 そして、その傍らに、影があった。  天井にヤモリのように張り付いている、人型の影。


 影が、首をコロンと回して、俺たちを見下ろした。  光る目。  裂けた口。


『……土足だよ』


 低い声が降ってきた。


 人間じゃない。これは、人間じゃない。


『僕の城を、汚すな』


 影が落下してきた。  ドンッ!!  着地の衝撃で、床板が割れる。  目の前に現れたのは、ボロボロの服を着た、背の高い男だった。  片足だけが異様に太く、ドス黒く脈打っている。


「う、うわあぁぁぁぁ!!」


 俺は悲鳴を上げて逃げ出した。  配信? 知るか!  ミナとケンジも、我先にと玄関へ走る。



 だが、逃げられるわけがなかった。  背後で、グチャッ、という湿った音がした。


 振り返ると、ケンジが壁にめり込んでいた。


 男が、あのおぞましい左足で、ケンジをサッカーボールのように蹴り飛ばしたのだ。


 ケンジの身体はくの字に折れ、口から内臓を吐き出して動かなくなった。


「いやぁぁぁ! 助けてぇ!」


 ミナが腰を抜かして這いつくばる。  男はゆっくりと近づいていく。  楽しんでいる。俺たちの恐怖を、味わっている。



「……いい匂いだ」


 男は鼻をひくつかせた。


 「さっきまでの君たちは、腐った生ゴミみたいな悪臭を放っていたけれど、今は違う。恐怖で熟成されて、芳醇なスパイスの香りがする」  


 男は、うっとりと目を細めた。


 恐怖。絶望。後悔。


 それらが混ざり合い、脳内で極上のカクテルが精製されているのが、手にとるようにわかるのだ。


 「泣かないで。せっかくの風味が落ちてしまう」  



 男は汚れた手を伸ばし、ミナの頬を伝う涙を指先で拭った。そして、その指を口に含み、テイスティングするように舌の上で転がした。

 

「……うん。塩辛いけれど、悪くない。メインディッシュの前の食前酒にはぴったりだ」


 男がミナの髪を掴み、軽々と持ち上げた。  ミナの足が宙を掻く。


「静かにしてくれるかい?」


 男の指先――黒く尖った爪が、ミナの喉元に食い込む。


 ブチッ。


 雑草を引き抜くような軽い音。


 ミナの声が途切れ、首がだらりと垂れ下がった。


 俺は玄関にたどり着いた。  ドアノブを回す。開かない。  いつの間にか、鍵がかかっている。  さっき蹴り開けたはずなのに。



「……どこへ行くんだい?」



 耳元で声がした。  いつの間に。  俺はゆっくりと振り返った。  目の前に、男の顔があった。  整った美しい顔立ち。でも、口元は血で真っ赤に染まり、瞳は爬虫類のように縦に裂けている。


「まだ、『お掃除』が終わっていないよ」


 男が笑った。  俺の視界が、男の大きく開かれた口の中の闇に吸い込まれていく。  ああ、これが「化け物屋敷」の正体か。  幽霊なんて可愛いもんじゃない。  ここには、生きた悪魔が住んでいるんだ。



 ガブッ。






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