最初の狩り
静かな夜だった。 あたしとお兄様は、リビングのソファで寄り添っていた。
電気は消している。 お兄様の新しい目は、暗闇の中でもよく見えるし、あたしも夜の方が落ち着くから。
窓の外から聞こえる雨音と、互いの鼓動だけが、世界の全てだった。
ブォォォォォン!!
突如、下品な爆音が静寂を引き裂いた。 エンジンの音だ。しかも一台じゃない。 強いライトの光が、カーテンの隙間から差し込み、天井を薙ぎ払う。
「……来たね」
お兄様が、本を閉じた。 その顔に、不快感が走る。
あたしは鼻をひくつかせた。 安っぽいコロン。汗。タバコ。そして、浮ついた興奮の臭い。 犬飼のような「恐怖」も、里見先生のような「正義」もない。 ただの好奇心と、悪意だけで膨れ上がった、中身のない人間たち。
ガヤガヤと、騒がしい声が近づいてくる。
『うぇーい! 着いたぜ、一家心中屋敷!』
『マジで雰囲気ヤバく音? 霊感あるから頭痛いんだけど~』
『はい、配信開始しまーす! 今日の肝試しはガチでヤバいとこ来ました!』
門を乗り越える音。 庭の土を踏み荒らす音。
3人……いいえ、4人だ。男が3人に、女が1人。 彼らは手に持った小さな機械に向かって喋りながら、ズカズカと敷地内に入ってくる。
「……排除してくる」
あたしが立ち上がろうとすると、お兄様の手がそれを制した。 大きくて、硬い手。 爪が伸びた指先が、あたしの肩を優しく押す。
「いいよ、世璃。座っていて」
お兄様が立ち上がった。 その動きは、以前のような緩慢なものではなく、肉食獣のようにしなやかで、音がない。
暗闇の中で、お兄様の瞳が金色に光った気がした。
「僕たちの城だ。 ……掃除くらい、主である僕がやるよ」
お兄様はニッコリと笑った。 それは、獲物を見つけた猛禽類の笑顔だった。




