第4話「精霊との絆」
(炎精霊を助けたい)
炎精霊との戦いが避けられない状況の中でも、かつて人間に力を貸してくれた炎精霊を取り戻す方法を模索していく。
(でも、それができない……)
魔物を精霊に戻すことができないから、私は精霊と縁を切ることを選んだ。
精霊が魔物に変貌していくのを止めることができないから、精霊と縁を切ることを選んだ。
頭では理解していたはずなのに、現実を受け止めることの難しさを痛感していく。
(もっと、力が欲しい)
魔物は、一瞬の躊躇いも見せずに全力で向かってくる。
魔物に変貌を遂げた炎精霊を見ていると、心の中に混乱と悲しみが渦巻いていく。
それでも動揺を隠しながら、雷精霊と風精霊の二体に指示を出していく。
「力を貸して、雷精霊! 風精霊っ!」
形を持たぬ黒い影は廊下の床を這うように広がり、精霊を飲み込むように迫ってくる。
精霊とは言葉を交わすことができるのに、魔物へと変貌してしまったら私は言葉を届けることができないのだと無力感に襲われる。
(こんなにも力を貸してくれてるのに……)
魔物の怒りと憎悪の感情が、辺り一面の空気を震わせる。
魔物から炎が放たれるけれど、その炎は魔物が悲鳴を上げているようにも思えた。
痛ましい感情を含んだ炎として、渦巻きながら私に襲いかかってくる。
「まだ……まだやれる!」
雷精霊の雷と、風精霊の風が混ざり合って、影の動きを鈍らせた。
その隙を逃さずに攻撃を仕掛けるけど、影は次から次へと姿を現して終わりが見えない
「私は、守るための力が欲しい……!」
空を切り裂くような轟音に、目を見開いた。
窓向こうに目をやると、雲間から舞い降りてくるドラゴンが視界に入った。
水を纏った強大なドラゴンは尾を振りかざし、ゆっくりと校舎に向かってくる。
魔物に支配されていた校舎を浄化するように高い波を運び、押し寄せてきた波に飲まれた魔物たちは水の勢いに負けた。一瞬にして、陰が消失してしまった光景に目を丸くする。
「水精霊……」
ドラゴンの容姿をした精霊の水精霊が次々と敵を倒していく姿は、まるで誰かの命令を果たすように勇ましく思えた。
「水精霊……」
目の前にいる水精霊に、ずっと心を奪われたままでいたい。
贄だった私が崖から谷底へと真っ逆さまに落下したのを救ってくれたのが、水精霊だったという話を伺っている。
「ステラさん、怪我はありませんか」
自分を救ってくれたかもしれない水精霊に強く惹かれていると、場を和ませるための柔らかな声が聴覚へ届いた。
「フェリーさ……」
「遅っ」
偽物のステラを守ることに専念していたユウと声が重なることで、目の前にいるのが本物のフェリーさんだと確信する。
「ステラさん、水精霊をお願いします」
「え」
「僕が約束を交わした精霊ではなく、ステラさんの呼び声に応えた精霊ですよ」
フェリーさんは穏やかな声で、私を諭す。
「でも……!」
「時間がありません」
力を欲していた私の声に、水精霊が応えてくれたというのは本当かもしれない。
でも、フェリーさんが姿を見せた時機を考えると、私に力を貸してくれた水精霊はフェリーさんが契りを交わした精霊で間違いない。
「精霊の力を最大限に引き出すことができるのは、シャロ家の魔女だけです」
圧倒的な存在感を放つ水精霊を見て自然と涙が零れ落ちそうになるのは、ようやく命の恩人と再会できたからかもしれない。
「水精霊、魔物の数を減らすために力を貸して」
言葉が喉に詰まりそうになるくらい、自分の無力さに心が痛む。
「私を、認めてくれる?」
フェリーさんから仲間を奪う行為のはずなのに、水精霊の目にはすべてを見通すような優しさが存在した。
それはまるで、私の心の中にある葛藤を理解しているようにも思えた。
「アスマさんと縁を切るために、力を貸して」
真摯な想いを言葉に込め、水精霊の心に届くことを信じた。
精霊の水精霊は静かに頷き、新たな絆が生まれたことに胸が熱くなる。
「炎精霊の相手は、僕が」
「お願いします」
水精霊が押し流すことのできなかった、最後の敵。
炎の勢いが衰えることのない炎精霊の相手をフェリーさんに託す。
戦う力に優れているフェリーさんなら、この事件を終わらせることができる。
そう信じられることが、何よりも心強い。
「アスマさん」
「炎精霊」
私と、フェリーさんの声が重なる。
「終わらせましょう」
絆を切るための最後の戦いの合図も、同時に重なった。
「アスマさん、私と勝負しませんか」
未だに表舞台に登場しないアスマさんの姿を探しながら、私は声を彼へと飛ばしていく。
「どうして、出てこないんですか」
私は鋭い目で、新たにアスマさんが繰り出してきた精霊を見据える。
「まるで、戦う力がないみたいですね」
水精霊の力を借りているはずなのに、彼らの攻撃を受けたアスマさんの精霊は蜃気楼のように揺らめいた。
(敵の姿が見えない)
敵の体が霧のように、跡形もなく消えてしまう。
私が力を借りる水精霊の攻撃は、ことごとく空振りに終わる。
(私は、幻と戦っている……?)
水精霊の力を信じている私は、精霊の姿を捉えられないほど動きが速いと考えることはできなかった。
私たちの絆を上回る精霊が登場したとは考えにくく、幻想に弄ばれているという考えを信じた。
「シャロ家を守るための力は、こんなものですか」
外野から見れば、押されているのは私。
アスマさんの勝利は見えているようなものなのに、彼は一向に姿を現さない。
「シャロ家を守るために、森契の盟は存在してるのでは?」
一歩も引かずに済むように、足に力を入れる。
呼吸を整え、心を冷静に保つ。
「自分の身を自分で守れないほど、私は弱くないですよ」
手に力を込め、再び攻撃を仕掛ける。
幾度となく水精霊が、アスマさんを攻め立てていく。
その猛攻に怯むように、幻が誕生する速度が衰えていくことに気づいた。




