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シャロ家の魔女が、大嫌いな世界を終わらせる  作者: 海坂依里
第1章「シャロ家の魔女」
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第1話「努力をやめた魔法使いたち」

「シャロ家の魔女様と、森契の盟(シルヴァン・アコード)は無敵~」

「国は安泰っ! 努力する必要なんてないっ」


 誰かが、どこかで賑やかな歌を唄っていた。


「シャロけのまじょさまと、しるばんあこーどがまもってくれる~」

「こころも、ゆめも、ささげましょ~」

「ラピスレンこくのために、いきましょ~」


 世界では、魔法使いが人々の憧れの存在として活躍していた。

 けれど、ラピスレン国では事情が違った。

 シャロ家の魔女と森契の盟(シルヴァン・アコード)に属する魔法使いは、精霊と呼ばれる異形の存在の力を借りることで魔法使いとしての力を高めていった。


「なんて、いい国に恵まれたのかしら」

「頑張るなんて、野暮ですわね」


 強大な力を持つシャロ家の魔女と、森契の盟(シルヴァン・アコード)に属する魔法使いが国の中心となり、その人気は今日も高まり続けている。

 その結果、魔法使いの価値は徐々に薄れ、多くの魔法使いは努力をすることをやめてしまった。


「シャロ家に双子が産まれるとは……」

「申し訳ございません……申し訳ございません……」


 生まれたばかりのはずなのに、私には両親が必死に年長者たちに頭を下げているときの記憶が残っていた。


「精霊様の怒りを買うのではないか」


 大広間の扉は静かに閉じられ、重苦しい空気が漂う。

 おめでとうという祝福の声が上がることはなく、新しい命の誕生を誰も祝ってはくれない。

 集まった大人たちの顔に喜びの色がなく、不安と嫌悪が浮かんでいたことを今でもよく覚えている。


「殺せばいいのでは……」


 高齢者の男性が低い声で呟くと、彼の言葉に周囲の人々も頷き、大広間に一気にざわめきが広がった。


「それだけは、それだけはどうか……」

「お許しください! この子たちには、この子たちには希望が……」


 魔女として優れた力を持つシャロ家の家系に、双子という戦力が生まれたことは祝福すべきことのはずだった。

 だが、シャロ家では、双子の誕生は厄災の始まりと言われている。

 シャロ家は時代に乗り遅れ、今もシャロ家に伝わる伝統や信仰を何よりも大切にしていた。


「精霊への生贄(いけにえ)にしましょう」


 この残酷な言葉を私たち双子に与えたのは、双子と血の繋がりがあるはずの祖母。


「お義母様、お願いします! この子には……」

「母さんっ!」 


 絶対的な権力を持つ長老的な役割を担っている祖母には、私たち双子を産んでくれた両親すらも反抗することができなかった。


「十六の歳に、精霊様の生贄とすることを定めます」


 母は泣き崩れ、父は声が枯れるほどに訴えてくれた。

 でも、少数の反対は、大勢の声に勝つことができない。


「十六も生かしてもらえるだけ、ありがたいと思いなさい」


 いつしか両親の間に諦めが生まれ、双子の片割れは精霊の生贄になることが決まった。


(今日が、十六の誕生日……)


 初めのドレスに心をときめかせたいはずなのに、鉄格子の向こう側では雨がしとしとと降り続いていた。

 灰色に染まった空は気持ちを沈ませるには十分な効果を発揮し、運命に従わなければいけないことに心を痛めた。


「ステラちゃん、お待たせ」


 出入り口も窓も鉄格子で覆われている、冷たく暗い部屋。

 そこに閉じ込められている私を呼びにくる、奇特な声に反応する。

 まるで罪人を閉じ込めるために存在する部屋は、自由に出入りすることができないはずなのに。


「いま、開けるね」


 美しい純白のドレスに包まれた彼女は、頑丈な鉄格子に取りつけられた鍵を解錠した。


「ばあ様たち、祭壇の準備でいないの」

「駄目……! おばあ様に逆らったら……」

「大丈夫。逆鱗に触れるようなことがあれば、シャロ家を出ればいいだけの話だから」


 生まれたときの記憶を一緒に持つ彼女は、私の手を取って鉄格子の外へと連れ出してくれた。


「雨、やまないね」

「でも、おかげで精霊の喉は潤ってるよっ」


 静まり返った屋敷の中には使用人すらいないらしく、私たち双子の貸し切りのようになっていた。


「どうせ碌な食事を摂ってないと思って、はい、パン」


 テラスの向こう側を見つめながら、静かな雨音に耳を澄ませていたときのことだった。

 双子の妹であるクレアが、皿に乗せられたパンと紅茶の入ったティーカップを差し出す。


「ありがとう」

「ステラちゃん、また痩せたみたいだから」


 パンを手に取り、一口かじる。

 でも、私が口にしたパンにはラズベリーが入っていて、酸っぱいラズベリーの味に顔が歪めるのが人としての普通のはずだった。


「って、ステラちゃん、また我慢してる!」

「こほっ」

「酸っぱかったら、ちゃんと顔に出して」


 牢獄のような場所で十六年も閉じ込められてきたことが理由なのか、昔から自分の感情を表現するのが苦手だった。


「こっちがチョコレート! ラズベリーは、私の」

「っ、うん、ありがとう」


 精霊の贄になった私が、怒ってはいけない。泣いてもいけない。喜びなんて感情は、忘れてしまった。

 自分の感情に蓋をしようと思い込んできた結果、感情を抑える癖がついてしまった。

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