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ep.9 目撃
彼女が見たのは、老人が真新しい手押し荷車に載せた巨大な卵型の物体を、ヨロヨロと自宅の玄関へ運び込もうとしているところだった。
青緑色の筐体は、この古びた町並みにはあまりにも不似合いで、近未来的な輝きを放っている。
マイケルが最近、熱心にテレビのCMを見ては「欲しい」とねだっていた、あの最新のVRゲーム筐体、ヴェリディアン・レゾナンスに間違いなかった。
ジャスミンは物陰に隠れ、しばらく彼の様子を伺った。
彼がどうにかこうにか玄関の中へ筐体を転がし入れ、扉が閉まると、彼女はそっと庭の方へと回り込んだ。
汚れた窓ガラスの隙間から、部屋の中を覗き込む。
薄暗く、物が散乱した部屋の真ん中に鎮座する卵型の筐体。
老人は、不器用な手つきでそれと格闘しているようだった。
80代後半と見える老人が、まさかこんな高価なゲーム機を買い、遊ぼうとしているとは…。
ジャスミンは感心すると同時に、一つの疑問が頭をよぎった。
一体、どうやって?
彼の見るからに貧しい生活を、ジャスミンは知っていた。