エピローグ
数日後、ゲーム筐体販売会社の経理担当者は、身に覚えのないモニター発注書に頭を抱えていた。
送り先はブライアン家。
不審に思い、担当者が直接ブライアン家を訪れると、そこは静かに葬儀が執り行われる最中だった。
担当者は、ただならぬ雰囲気に気圧されながらも、なんとか状況を把握しようと周囲を見回した。
すると、参列者の隅に若い女性と男の子を見つける。
誰に声をかけるべきか迷ったが、比較的話しかけやすそうな雰囲気の女性に意を決して声をかけた。
「あの、すみません。先日こちらにご自宅宛にモニターが届いたかと存じますが、お恥ずかしながら、弊社から誰かが勝手に発注をかけているようなんです。何かご存知でしょうか?」
ジャスミンは、その言葉を聞いた瞬間、脳内でいくつもの点が繋がるのを感じた。
ゲーム内でブライアンを騙る、少し若かりし頃のブライアンに酷似しているであろう老人、届けられたモニター、そこに映し出された無数のプレイヤーとNPCたち、そして今回会社から勝手に発注されたという事実。
今思えば、あんなに頻繁にアークと出くわすのもおかしい。
もしかしたら、私に声をかけてきたのも…?
「…まさか」
ジャスミンの顔から血の気が引いていく。
すべてが繋がり、事態の裏側にある不穏な真実に、彼女は戦慄した。
葬儀が終わり、静けさを取り戻したブライアンの家。
ジャスミンは、そっとアークが「眠る」ゲーム筐体の前へと向かった。
筐体はまるで、ブライアンの魂が宿っているかのように、そこに存在感を放っていた。
「あなたは、彼のアークだったのね。」
ジャスミンは、筐体へと手を伸ばし、静かに、そして深く感謝の言葉を呟いた。
「…ありがとう」
その言葉には、ヴェリディアン・レゾナンスへの感謝と、そしてブライアンへの追悼の気持ちが込められていた。