ep.29 共に行こう
翌日の夜、ジャスミンはマイケルを寝かしつけると、覚悟を決めたように自室へ向かった。
そして、これまでマイケルと交代で使っていたヴェリディアン・レゾナンスの筐体を、ブライアンの自宅へと運び込んだ。
彼の憔悴しきった姿と、ゲームへの途切れない情熱を目の当たりにし、ジャスミンは彼が望む場所で最期を迎えることができるよう、できる限りのことをしたいと強く思ったのだ。
ジャスミンは電源を入れ、ブライアンを優しく筐体へと促した。
彼が苦しまないよう慎重に介助し、蓋が閉じられると、ブライアンはゆっくりと目を閉じた。
ジャスミンも隣の筐体へ身を沈める。
二人の意識が、まばゆい光の中に溶けていく。
《インフィニタス・オンライン》の世界。
ジャスミンとブライアンのアバターが、昨夜ログアウトした地に降り立った。
ブライアンのアバターは、いつもの少年姿だ。
彼はどこか落ち着かない様子で、周囲を見回している。
その時、後方から足音が聞こえ、ブライアン、セツナ、ヴァルカンが現れた。
彼らは、ジャスミンが昨夜ログアウトした場所で共にログアウトし、先にログインして待っていてくれたのだ。
「おお、お嬢さん。 用事は済ませられたかの。」
ゲーム内のブライアンが穏やかに声をかけた。
ジャスミンは、現実世界のブライアンのアバターである少年が横にいることで、ゲーム内のブライアンに対し、改めて疑問をぶつけた。
「あの、ブライアンさん。一つお聞きしたいんですが、なぜ、私の近所のおじいさんの住所を知っているんですか? あと、あなたの正体は一体……」
ジャスミンが核心を突くと、ゲーム内のブライアンは一瞬、困ったような表情を浮かべた。
しかし、すぐにいつものにこやかな顔に戻る。
「はっはっは。嬢ちゃん、そういう詮索は野暮というものじゃぞ。わしは、単なるゲームの冒険者ブライアン。それ以上でも、それ以下でもないさ」
彼はそう言って煙に巻いた。
セツナもヴァルカンも、二人の会話の意味が分からず、首を傾げている。
ジャスミンは、これ以上問いただしても無駄だと悟り、諦めてため息をついた。
「よし、じゃあ、昨日の続きだ!」
ゲーム内のブライアンが張り切ったように言うと、ジャスミンにパーティ申請を出し、ジャスミンが承諾した。
その瞬間、ジャスミンたちの視界に、少年の頭上に表示された名前が飛び込んできた。
【アーク】
「アーク……? あなた、アークって名前だったのね」
ジャスミンが驚いて口にすると、少年、アークは少しばかり照れたように俯いた。
「ああ……『アーク』は、昔、わしが一番好きだったゲームのキャラクターの名前だよ……。憧れの存在だったんだ」
その言葉に、ジャスミンはアークへの理解を深めた。
彼の生意気な態度の裏には、純粋なゲームへの愛と、その世界への憧れがあったのだ。




