ep.28 つながるピース
ジャスミンは急いでブライアンの家へと向かった。
玄関は開け放たれており、昨日と同じように、中から苦しそうな咳き込みが聞こえてくる。
ジャスミンは慌てて家の中へ飛び込んだ。
ブライアンは、リビングの床に横たわり、またしても激しく咳き込んでいた。
口元を押さえる手からは、鮮血が床に滴り落ちている。
顔色は昨日よりもさらに土気色で、今にも息絶えそうなほどだ。
「ブライアンさん! また! すぐに救急車を…!」
ジャスミンはポケットから携帯を取り出そうとするが、ブライアンは弱々しい手で彼女の腕をそっと掴んだ。
その瞳は、諦めと、そしてどこか懇願するような光を宿していた。
「やめろ……。わしは、もう……わし自身のことだ。それくらい、わかる……」
その言葉に、ジャスミンは息をのんだ。
彼は、死を覚悟しているかのような口調だった。
ジャスミンは、彼の冷たい手を握りしめ、救急車を呼ぶべきか迷った。
彼の目には、強い意志が宿っていた。
ブライアンは、途切れ途切れに言葉を紡ぎ始めた。
「わしは……本当に、心の底から……ゲームが、ずっとずっと……大好きだったんじゃ……」
彼の視線が、部屋の隅へと向けられた。
ジャスミンもその視線を追う。
薄暗い部屋のあちこちには、埃をかぶったゲームのパッケージや、古びたゲーム機が、まるでオブジェのように飾られていた。
テレビ台の中には、カセット式のレトロゲーム機や、使い込まれたコントローラーが並べられている。
それは、彼がどれほどの時間をゲームと共に過ごしてきたかを物語っていた。
「病院に行ったところで、どうせ、もう長くはない……徒にただ時間と自由を奪われるだけじゃ」
ブライアンの目は、どこか遠い過去を見つめているようだった。
「でもな……死ぬ時は、子供の頃からの夢だった、あのファンタジーの世界で最期を迎えたいんじゃ……。それが、わしの、たった一つの願いなんじゃ……」
彼の声は、懇願するように震えていた。しかし、すぐに悔しそうな表情へと変わる。
「でも……このとおりじゃ。いつも、システムに現実の世界に引き戻されてしまう……。悔しい……!」
その言葉を口にした途端、ブライアンの目から大粒の涙が溢れ出した。
悔しさに、そして無念さに、その体が小刻みに震えている。
全身から力が抜け落ちたかのように、彼はうなだれた。
その言葉を聞いた瞬間、ジャスミンの中で、全てのピースが繋がった。
あのゲーム内の少年。常にゲームを心から楽しんでいるようだった、あの驚異的なプレイスキルを持つ少年。
そして、常に強制ログアウトで姿を消していた少年。
「やっぱり……あの少年は……あなただったのね……」
ジャスミンは、震える声で呟いた。
ブライアンは、何も答えず、ただ静かにジャスミンを見つめ返した。
その瞳には、ゲームへの尽きることのない情熱と、避けられない現実への悔しさが混在しているようだった。
ジャスミンは、彼の意思と夢を尊重し、救急車を呼ぶことを諦め、ブライアンの隣に寄り添った。
彼が少しでも楽になるように、彼の体を支え、背中をさする。
明け方の空が白み始めるまで、ジャスミンはブライアンの介抱を続けた。
彼の呼吸は依然として浅かったが、その体にはまだ温もりが残されていた。




