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アーク  作者: Masa
28/37

ep.28 つながるピース

ジャスミンは急いでブライアンの家へと向かった。

玄関は開け放たれており、昨日と同じように、中から苦しそうな咳き込みが聞こえてくる。

ジャスミンは慌てて家の中へ飛び込んだ。


ブライアンは、リビングの床に横たわり、またしても激しく咳き込んでいた。

口元を押さえる手からは、鮮血が床に滴り落ちている。

顔色は昨日よりもさらに土気色で、今にも息絶えそうなほどだ。


「ブライアンさん! また! すぐに救急車を…!」


ジャスミンはポケットから携帯を取り出そうとするが、ブライアンは弱々しい手で彼女の腕をそっと掴んだ。

その瞳は、諦めと、そしてどこか懇願するような光を宿していた。


「やめろ……。わしは、もう……わし自身のことだ。それくらい、わかる……」


その言葉に、ジャスミンは息をのんだ。

彼は、死を覚悟しているかのような口調だった。

ジャスミンは、彼の冷たい手を握りしめ、救急車を呼ぶべきか迷った。

彼の目には、強い意志が宿っていた。


ブライアンは、途切れ途切れに言葉を紡ぎ始めた。


「わしは……本当に、心の底から……ゲームが、ずっとずっと……大好きだったんじゃ……」


彼の視線が、部屋の隅へと向けられた。

ジャスミンもその視線を追う。

薄暗い部屋のあちこちには、埃をかぶったゲームのパッケージや、古びたゲーム機が、まるでオブジェのように飾られていた。

テレビ台の中には、カセット式のレトロゲーム機や、使い込まれたコントローラーが並べられている。

それは、彼がどれほどの時間をゲームと共に過ごしてきたかを物語っていた。


「病院に行ったところで、どうせ、もう長くはない……徒にただ時間と自由を奪われるだけじゃ」


ブライアンの目は、どこか遠い過去を見つめているようだった。


「でもな……死ぬ時は、子供の頃からの夢だった、あのファンタジーの世界で最期を迎えたいんじゃ……。それが、わしの、たった一つの願いなんじゃ……」


彼の声は、懇願するように震えていた。しかし、すぐに悔しそうな表情へと変わる。


「でも……このとおりじゃ。いつも、システムに現実の世界に引き戻されてしまう……。悔しい……!」


その言葉を口にした途端、ブライアンの目から大粒の涙が溢れ出した。

悔しさに、そして無念さに、その体が小刻みに震えている。

全身から力が抜け落ちたかのように、彼はうなだれた。


その言葉を聞いた瞬間、ジャスミンの中で、全てのピースが繋がった。

あのゲーム内の少年。常にゲームを心から楽しんでいるようだった、あの驚異的なプレイスキルを持つ少年。

そして、常に強制ログアウトで姿を消していた少年。


「やっぱり……あの少年は……あなただったのね……」


ジャスミンは、震える声で呟いた。

ブライアンは、何も答えず、ただ静かにジャスミンを見つめ返した。

その瞳には、ゲームへの尽きることのない情熱と、避けられない現実への悔しさが混在しているようだった。


ジャスミンは、彼の意思と夢を尊重し、救急車を呼ぶことを諦め、ブライアンの隣に寄り添った。

彼が少しでも楽になるように、彼の体を支え、背中をさする。

明け方の空が白み始めるまで、ジャスミンはブライアンの介抱を続けた。

彼の呼吸は依然として浅かったが、その体にはまだ温もりが残されていた。


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