ep.20 ジャスミン、タダ働きをする
翌日−
ジャスミンはマイケルをスクールバスに送り出した後、昨日病院に運ばれたブライアンのことが気になり、彼の家の前を通りかかった。
ひっそりとしたその家は、昨日と同じように玄関のドアが半開きになっていた。
心配で中を覗き込もうとした、その瞬間だった。
「また覗きか?」
背後からかけられた声に、ジャスミンは心臓が跳ね上がった。
振り返ると、そこに立っていたのは、他でもないブライアンだった。
昨日病院で瀕死の状態だったはずの彼が、薄汚れた普段着姿で、玄関に立っている。
その顔色はまだ悪いものの、昨日ほどの苦痛は感じられない。
「ブライアンさん!? な、なんでここに……病院は!?」
ジャスミンは混乱して言葉を失った。
ブライアンは、どこか居心地が悪そうに目をそらすと、わずかに咳払いをした。
「ああ、病院は……その、ちょっとだけ、な。もう大丈夫だ」
信じられない。
ジャスミンは彼を心配して一晩中眠れなかったというのに、本人はけろりとしているように見える。
しかし、彼の痩せ細った体と、青白い顔色を見れば、完全に回復したとは言えない。
「もう大丈夫って……そんな、勝手に帰ってきちゃダメでしょう! ちゃんと検査とか、治療とか……」
ジャスミンは思わず声を荒らげた。
ブライアンはジャスミンの剣幕に気圧されたのか、少し困ったように口を開いた。
「いや、その……どうも、退院させてくれなくてな。まあ、点滴だけ打ってもらって、こっそり出てきたんだよ」
ジャスミンは呆れてため息をついた。
これほどまでに破天荒な老人がいるだろうか。
しかし、無理をして家に帰ってきたのなら、きっと何か理由があるに違いない。
そして、この散らかり放題の家を見て、ジャスミンはブライアンが一人で生活することに限界があることを悟った。
「もう! いい加減にしてください! とにかく、こんな散らかったところで休めるわけないでしょう? 私が掃除しますから!」
ジャスミンは半ば強引にブライアンを椅子に座らせると、すぐに彼の家の大掃除に取り掛かった。
長年手入れされていなかったであろう部屋は、埃と荷物であふれかえっていた。
ジャスミンは窓を開け放ち、掃除機をかけ、汚れた食器を洗い、洗濯物を回した。
ブライアンは最初、申し訳なさそうに見ていたが、やがて居心地悪そうに、しかしどこか満足げに、ジャスミンの手際よい動きを眺めていた。




