ep.18 小さな英雄1
その日の夜、《インフィータス・オンライン》の世界では、あの少年が一人、目を輝かせながらクエストをこなしていた。
彼は、ジャスミンたちが苦戦していた山岳地帯の凶暴な魔物を発見すると、待ちきれないといった様子で飛びかかり、短剣を両手に構え、人間離れした動きで翻弄する。
魔物の攻撃を紙一重でかわし、急所を的確に突き、鮮やかな手つきで仕留める。
その一連の動きは、まるで熟練の舞踊家のようであり、少年の口元には、抑えきれない笑みが浮かんでいた。
次に彼が向かったのは、最近魔物の出現が頻発しているという忘れられた炭鉱の調査クエストだった。
炭鉱の入り口は崩れかけ、内部は暗く、獣のうめき声が響いていた。
一般の冒険者が数人がかりで挑むような場所を、少年は逸る気持ちを抑えきれないように、スキップでもしそうな足取りで奥へと進んでいく。
坑道を進むと、壁の影から飢えたゴブリンの群れが飛び出してきた。
「きたきた!」
歓声を上げながら短剣を振るい、ゴブリンたちを蹴散らしていく。
一体、また一体と倒れるごとに、彼の笑い声は大きくなっていく。
さらに奥へと進むと、瘴気をまき散らす巨大な地下の蟲型モンスターのアースイーターが立ちはだかった。
その巨体と猛毒に、多くの冒険者が引き返したボスだ。
「手応えありそうじゃん!」
少年の瞳は興奮に輝いていた。
飛び交う毒液をギリギリで避け、蟲の弱点である関節を狙って短剣を突き刺していく。
アースイーターが苦悶の叫びを上げ、崩れ落ちると、少年は両手を叩いて喜び、
「よっしゃ!やった!」
と達成感を露わにした。その素材を回収する手つきもどこか楽しげだった。
その様子を、炭鉱の入り口で恐る恐る様子を伺っていた数人のNPC(非プレイヤーキャラクター)の炭鉱夫たちが目撃していた。
「おお、なんという強さだ……!」
「若者よ! あなたのおかげで、我々はまた鉱山に入れるぞ! ありがとう、ありがとう!」
彼らは土まみれの顔で少年を囲み、深く頭を下げ、心からの感謝を述べた。
しかし、少年は彼らの言葉に全く耳を傾けず、無表情で次の目的地へと急ぐ。
彼の興味は、ただ次の「遊び相手」へと向かっていた。