ep.15 現実とのギャップ
翌朝、ジャスミンはマイケルをスクールバスに送り出すと、近所のブライアンの家へ向かった。
ゲームでの感謝を伝えたくてうずうずしていたのだ。
ゲーム内のブライアンは、どんなに頼りになる存在だったことか。
「あの…、おじいさん、 おはようございます!昨日も本当にありがとうございました!」
ジャスミンが玄関先から声をかけると、ブライアンがゆっくりと顔を上げた。
いつもの薄汚れた服装で、憔悴しきった表情をしている。
しかし、彼の顔には何の感情も浮かんでいなかった。
ジャスミンの言葉を完全に無視するように、彼はそのまま部屋の奥へ引っ込んでしまった。
ジャスミンは呆然と立ち尽くした。
ゲームの中の優しく物知りなブライアンと、現実の無愛想な彼とのギャップに、改めて戸惑いを隠せない。
その日の午後、学校から帰ったマイケルは、宿題もそこそこに自分の部屋へ駆け込んだ。
待ちきれない様子で、彼の小さな体には大きすぎるヴェリディアン・レゾナンスの筐体に潜り込む。
「お母さん、あれすごく楽しいね!」
マイケルは興奮冷めやらぬ様子で、母に語りかけた。
ジャスミンは改めて、買ってよかったのだと安堵した。
その夜、ジャスミンはマイケルをベッドに寝かしつけていた。
一日の疲れと、ゲームでの興奮が入り混じり、マイケルはすぐにでも眠りにつきそうな様子だ。
「ママ、今日ね、ゲームでヒーローがいたんだよ」
うつらうつらとしながら、マイケルは今日の出来事を語り始めた。
「僕が危なかった時、助けてくれたんだ。すごく速くて、かっこよかったんだよ」
その言葉を聞きながら、ジャスミンはそっとマイケルの髪を撫でた。
自分では守ってあげられないゲームの世界で、息子を救ってくれた見知らぬ誰か。
彼女の歯痒い思いとは裏腹に、マイケルの心には、確かにヒーローの姿が刻み込まれたのだ。
「うん、きっと、マイケルのピンチを救ってくれる、素敵なヒーローだったのね」
ジャスミンは優しく囁き、マイケルの額にキスをした。