ep.11 武器選択
『読み取ったDNAをもとにアバターを構築します』
暗闇で無機質な女性のアナウンスが響く。
「インフィニタス・オンライン」の世界へ意識が移行した瞬間、ジャスミンは身体が軽くなるのを感じた。
まるで長い間まとっていた重いローブを脱ぎ捨てたかのような解放感。
彼女の脳裏に映し出されたのは、広大な緑の平原と、遠くにそびえる壮麗な山々、そして頭上には太陽と二つの月が輝く、幻想的な世界だった。
目の前に、半透明のシステムウィンドウが浮かび上がる。
そこには、彼女のゲーム内でのプロフィールが表示されていた。
名前:ジャスミン
精神年齢:29歳
種族:ヒューマン
職業:冒険者
精神年齢…それがこのゲーム内の年齢として反映される仕組みに、彼女は驚きを覚えた。
画面に映し出された彼女のアバターは、現実の、しかしどこか生命力に満ちた自分自身の顔だった。
こういったゲームには疎いジャスミンにとって、ゲーム内の名前を考えるなどという発想はなく、自身の名前である「ジャスミン」で登録していた。
職業は「冒険者」。
そして、その下に表示された初期装備の選択肢。
武器のみを自由に選べるとのこと。剣、短剣、杖、弓、槍……。
武器の下に表示されている説明を見ながら、ジャスミンはマイケルのためになるならと考え、思わず杖のアイコンに指を伸ばしかけた。
マイケルがこの世界に来た時に、彼の隣で支えてあげたい。
しかし、彼女の自宅にはヴェリディアン・レゾナンスがたった一台しかない。
マイケルがゲームをする時、自分はログインできない。
彼を守れるのは、彼自身か彼女以外の他の誰かなのだ。
それに、失敗することだって大事な教育だ。
そう割り切り、自分自身がこの世界を楽しむことを決めた。
数秒の葛藤の後、ジャスミンは杖のアイコンから指を外し、隣のクロスボウのアイコンをタップした。
安全であろう遠距離から冷静に状況を判断し、狙いを定める。
この世界では、自分の身は自分で守らなければならない。
彼女は、静かに頷いた。