ep.10 もう一つのVR
数日後、ジャスミン宅のリビングには、ブライアンのそれと同じ、青緑色のヴェリディアン・レゾナンスが鎮座していた。
「買ってしまった……」
ぽつりと、彼女は呟いた。
夫が亡くなってから、マイケルのためにと自分に言い聞かせて、贅沢は控えていたはずなのに。
まさか、あの老人に触発されて、こんな高額なものを購入するとは。
一抹の後悔が胸をよぎる。
本当にこれで良かったのだろうか?
だが、目の前の洗練された卵型の筐体は、彼女のそんな葛藤を打ち消すかのように、静かに、しかし力強くそこに存在していた。
彼女は子供の頃から、新しいものへの好奇心が人一倍強かった。
夫が亡くなって以来、彼女の人生は停滞し、新しい刺激から遠ざかっていたのだ。
「これも、マイケルのため、だもの……」
そう言い訳をしながら、ジャスミンはゆっくりと立ち上がった。
彼女の指先が、起動ボタンへと伸びる。
小さな青緑色の光が瞬き、筐体から静かな駆動音が聞こえてきた。
筐体の蓋が開くと、中に体を滑り込ませた。
柔らかいクッションに体が沈み込み、外界の音が遠ざかる。
暗闇に包まれた空間で、筐体が彼女の脳と視覚神経を接続する、今まで感じたことのない微かな感覚が伝わってきた。