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ど正論ヒーロー セイロンガー  作者: 月極典


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98/113

正論(98)立板に水の男デイビッド


 ニューヨークのデイビッド・マーロンは両手を広げて語り始めた。

 『Ladies and gentlemen, before you call this harassment, let me remind you—this building is private property.

In both Japanese and U.S. law, entry without permission or respect is not journalism, it’s intrusion.』


 ぽっかーーん。

実際にそのオノマトペが聞こえてきたかのように報道陣は口をあんぐりさせていた。


 統合AIエミリーがフォローを入れる。

『失礼しました。皆さん、特に質問者の方で英語に自信のない方はいらっしゃいますか?』

 TVカメラは後ろからソファに座るリポーターや記者が映るアングルに切り替える。

 

 ゆっくりと、恥ずかしそうに全員が手を上げる。高柳リポーターに至っては元気に指を揃えて、回答に自信がある小学生のごとく、腕を耳に付けてピンッと上げている。


 セイロンガーはそれを見て、モニターのデイビッドに伝える。

「Hey, David, mind switching to Japanese? We’re on live TV, and half the country’s watching.」


『アハッ、そんなに観てるかーーい!』

 驚いたことに、デイビッドは流暢な日本語でツッコミを入れた。

 

『失礼、皆さん、日本の英語教育をナメてました。私は、デイビッド・マーロン、アメリカと日本、両国の資格を持つ弁護士です。セイロンガー氏とは、大学時代に同じアメフト部で切磋琢磨した仲です。私がクォーターバック、彼がランニングバックです。顔を見ればなぜそうなったかわかりますね? おっと、彼は顔が見えないか。ハハッ』

 

 セイロンガーは咳払いをひとつ、モニターに向かって、

「……おい、デイビッド。真面目に頼む」


『すまん、こういったジョークはルッキズムの観点から相応しくなかったな。まったく、最近はすぐに炎上するから困ったものだ……。オホン、OK、真面目に話そう。私は友人であるセイロンガー氏を日頃から法律面で最大限にバックアップしています。今回の騒動に関しても、映像を入手・解析し、すぐに偽物による犯行と断定しました。あのダサいマスクと下手くそな日本語で、彼、セイロンガーと混同することなんてあり得るのかと大笑いしました。』


 TVカメラはモニターのデイビッド・マーロンにズームする。立板に水という言葉そのままに、デイビッドは日本語で淀みなく話す。


『私は今回の事件の黒幕は予想がついていますが、まぁそれは置いておきましょう。まずは、事件の容疑者でもないセイロンガー氏のプライバシーを守ることを優先します。彼は完全に私人であり、彼に関わる全ての事柄を許可なく報道することを拒絶します。これが守られない場合、報道機関、個人のSNSや動画配信サービスを問わず、法的措置を講じます。私の言う法的措置は脅しではありません。すぐやります。そして必ず勝って後悔してもらいます。』


 先程のふざけた態度からうってかわり、断固とした口調と厳しい表情はその場の空気を凍り付かせた。


『しかしながら、セイロンガー氏は、後ろ指を差されるような事はしていない、知りたいのなら答えよう、とのことで、この場が設けられることになりました。質問された事について、可能な限り彼は答えますが、一つ条件が有ります。』

 

 デイビッドはあえて間をおいて話を続けた。

 

『条件とは、質問に対し、彼から全く同じ質問を質問者にします、それに答えたら、セイロンガー氏が答える、というルールです。例えば、年齢を聞くのであれば、ご自身の年齢を答えてから、となります。こちらの条件で良いという方だけ残って頂き、会見を始めたいと思います。』


 まさに、前代未聞の会見が、始まろうとしていた。

 

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