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ど正論ヒーロー セイロンガー  作者: 月極典


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97/113

正論(97)真由美はど直球


「ファ〜〜〜〜〜」

 欠伸ではない。江口麻里が口元を両手で塞いでときめいている声が漏れているのだ。


 IHA東京トレーニングセンターに宿泊することになった真由美、江口麻里、そして大曲博士。

3人はトレセンの宿泊施設の広い談話室でソファに座り、テレビを観ている。もちろん、セイロンガーのお宅訪問……ではなく、報道陣を招いての会見の生中継だ。


「なんて素敵なペントハウスなの、管理人さん! あんなに広い部屋に1人で暮らしてるなんて、勿体ないわぁ……。まさに独身貴族、ねぇ真由美ちゃ……」

 麻里は興奮しながら、横に座っている真由美を見た。

 

 真由美は目を潤ませて祈るように両手を合わせて、呟いている。

「セイロンさん……頑張れ。エミリー、セイロンさんを助けてあげて……」

 テレビからは送迎の車の中で仲良く話している統合AIエミリーの声も聞こえている。自分がその場で助けてあげられないのが悔しくてたまらない真由美であった。


「……」

 麻里は、いい歳してはしゃいでいた自分が恥ずかしくなり、誤魔化すように言葉を継いだ。

「コホンッ……真由美ちゃん? セイロンさんは大丈夫、あの人はヒーローだもん。きっとマスコミなんて返り討ちにするわよ」


 その様子を横目で見ながら大曲博士は思う。

(可愛らしい、純粋な恋する乙女。それに比べて江口くん、君には彼をモノにしたいという邪念があり過ぎる。これは相当に手強いぞ?)


「お姉さん……」

 真由美はテレビを真っ直ぐ観ながらポツリと呟いた。


「何かしら?」

 麻里は、余裕のある年上のお姉さんスマイルで答えた。聞いてあげるから、何でも話してごらんフェイスだ。


「お姉さんはセイロンさんのこと、好きなんですか?」


「え!?」

 余裕のあるお姉さんは僅か1秒で崩れ去り、動揺する赤面のお姉さんに変わった。


(ど直球のストレート! 100マイル超のフォーシームファスト!)

 大曲博士は野球ファンだった。


 麻里は耳まで真っ赤だが、幸い真由美は麻里を見ていない。

「やだぁ、真由美ちゃん! そういうのは、ほら、何ていうのかな? 簡単に人に言うものじゃないっていうか、セイロンさんはマンションの大家さんで、私は入居者だし?あの〜何だろう、恋愛感情? そういうのは、あんまり人に言わないタイプ? そのぅ……」


「大体わかりました。すいません、ちょっと気になってしまって。お姉さん、美人だから……」


「いや、そんなぁ美人だなんて。真由美ちゃんも、めっちゃくちゃ可愛いわよぉ?」


 恋のライバル同士の褒め合い。

(何を見せられているんだ、私は……。)

 大曲博士は思いながら、再びテレビに目を向けた。


 テレビの生中継は、ちょうど雑誌記者を追い出す模様が映し出されている。

「さすがだな、赤い稲妻は。挨拶がない程度で海千山千の雑誌記者を追い出すとは。見たところ彼に好意的なマスコミがほとんどじゃないか?」


「確かに、有無を言わさず彼が場の空気を完全に支配していますね……ってブフッ、イケメン外人出た!」

 モニターに映し出されたデイビッド・マーロンを見て麻里は飲み物を吹き出しかけた。


「お姉さん、カッコよければ誰でも良いんですか?」

 真由美は横目で麻里を見ながら冷静に突っ込んだ。


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