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ど正論ヒーロー セイロンガー  作者: 月極典


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95/113

正論(95)スーツは男の戦闘服


 報道陣30名が待つロビーにセイロンガーは地下駐車場に連絡する非常階段から現れた。


 彼がエレベーターを使用するのは11階の自宅と1階の往復のみである。例えば、日々の館内清掃を行う時は非常階段を使用し、居住者のエレベーター使用の妨げにならないようにしているのだ。


「お待たせした。これから11階の自宅に案内するが、近隣に路上駐車している中継車等はあるまいな?」


「「「あっ」」」

 TV局スタッフから同時に声が上がる。


「近くのコインパーキングに移動するか、地下駐車場にゲスト用のスペースが5台ほどある。速やかに移動してくれ」


 TV局5社のスタッフは車の移動に外へと走った。


「全く、自分たちの利益の為に緊急性もない野次馬取材に来ておいて違法駐車を平然とするとは、君たちTV局の倫理観はどうなっているんだ?」


「申し訳ありません……」

 リポーター高柳は全国放送の生中継でたしなめられ、謝罪した。


「まぁ、いい。順に11階に移動し、エレベーターホールで待っていてくれ。私は非常階段で上がる。もし、居住者がエレベーターを使用する際は譲るように。決して一緒に乗って話を聞こうとは考えないことだ、いいな?」

 セイロンガーはそう言って、非常階段に消えた。


「何だ、アイツ。めちゃくちゃ偉そうだな……」

 週刊誌のベテラン記者は憤懣やるかたなく吐き捨てた。

 

「彼のご高説はもっともだがね、まぁ、カチンときたかな」

 顔見知りであろう、別の記者が答えた。


 11階エレベーターホールに集合した報道陣は非常階段を息切れもせずに登ってきたセイロンガーに、自宅のペントハウスへ案内された。


 玄関を開けると広いエントランスホールとなっている。


『お帰りなさい、マスター』


「ただいま、エミリー。異常はないかな?」


『はい、問題ありません。ニューヨークのマーロン氏から通信が入っており、待機して頂いてます』


「ありがとう。マスコミの皆さん、入ってくれ。この通路を真っ直ぐ進んだ先がリビングダイニングになっている。そちらで話をしよう」


「お邪魔します」

「失礼します」

「……」

「……」

「ありがとうございます」

「失礼しまーす」

 報道陣が次々にセイロンガー邸に上がっていく。

 

 太陽テレビの女性リポーター高柳がリポートを始める。高柳が長い通路を進むごとにAIエミリーによって照明が点灯していく。

「今ですね、セイロンガーさんのお宅に入りました。広い玄関です。多分、この玄関に私の部屋がすっぽり入ってしまうんじゃないかという感じです。そして、通路には何でしょう、高そうなモダンアートが壁に飾ってあります。これは……アメリカのタイム誌のケネディ特集や、よく知らないアメフト選手が表紙のスポーツ誌なども額に入って飾ってありますね。オシャレですぅ」


「部屋のリポートなんかしてないで早く進め!」

 高柳は先頭を確保してリポートしている為、後ろの報道陣から怒声が上がった。


「怒られましたがリポート続けます。さて、いよいよリビングダイニングに突入しますね」


 高柳がドアを開けると、そこは30畳はありそうな広々としたリビングダイニングであった。壁には大型モニター、その前には15人掛けのソファがある。

「広〜い! 広過ぎる! こんなに広いリビング初めて入りました!!」


『えーっと、高柳さん。セイロンガー氏は今どちらに』


「はい先程、着替えと準備があると言って他の部屋に行かれたようです。あっ、いらっしゃいました! きゃっ、スーツです。仕立ての良さそうな、ネイビーのスーツでいらっしゃいました!」


 セイロンガーは休日仕様の白Tシャツにジーンズを脱ぎ、彼の戦闘服というべきスーツ姿へ身を包んでいた。その姿からは仕事に向かう男の闘志のようなものが感じられた。


「話を始める前に、ウチの統合AIエミリーから報告がある」

 

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