正論(94)ニュースショー
民放テレビ局、夕方のニュースショーの司会者が、スタジオからリポーターに呼びかける。
「高柳さん、先程、自宅マンションに帰宅したセイロンガー氏ですが、報道陣が自宅に招かれるという驚きの展開になりましたね?」
カメラが中継に切り替わり、現場の女性リポーター高柳が答える。周りでは各局のリポーターがそれぞれのテレビカメラに向かってリポートしている姿が見える。
『はい、こちら現場の高柳です。セイロンガー氏ですけれども、先程、赤い高級スポーツカーで帰宅し、報道陣を避けることなく毅然とした態度で『ここは迷惑だから』と、我々報道陣を自宅へ招きました。現在、セイロンガー氏が戻るのを待っているところになります』
「そこは、マンションのロビーになりますか? また、実際のセイロンガー氏の印象はいかがだったでしょうか?」
『はい、こちらはセイロンガー氏がオーナーとして所有するマンションのロビーになっています。こちら11階建なんですが、ロビーは大変広々としていて、ちょっとした談話スペースもあり、掃除も行き届いていて、駅近だし、お家賃どのくらいかしら……なんて思ってしまいました』
真面目な顔から照れ笑いを隠すようにリポートする高柳。
「はぁ、良い感じの高級マンションということですね?」
司会者はフォローするように高柳のリポートを上手く言い換えた。
『はい、この辺りだとそうですねぇ、ワンルームで12〜15万くらいには、なるんじゃないかと考えています』
駄目だこりゃ、という感じで司会者、
「あの、家賃よりですね、セイロンガー氏の印象をお願いします」
『失礼しました。セイロンガー氏は噂の赤いヒーロースーツに真っ白なTシャツを細身のジーンズにインした格好で、颯爽と現れました。第一印象は、スタイリッシュでカッコいい、です!』
軌道修正しようとしたが、結局個人的な感想に着地してしまう高柳。
久々の現場からの生中継、失敗は出来ないと必死に現場をスタジオからコントロールしようとする司会者。
「え〜っと……、事件の映像と比較していかがでしょう? 違い等、気付かれた点はありますか?」
焦る司会者の様子を感じ取った高柳、凄惨な現場もこなしてきた自負がある。
(ちゃんとやれ、私!)
『私も一般の方が撮影された事件の映像をいくつも見ましたが、実際のセイロンガー氏はカタコトではなく流暢な日本語を話され、声も落ち着いた渋い低音で、とても素敵でした。また、マスクもですね、映像のように口元だけ素顔になっておらず、顔全体がマスクで覆われていて、そこも良かったです』
もう、笑って誤魔化すしかないと判断した司会者。
「あはは……高柳さん的に、かなりの好印象だったようですね?」
『すみません、かなり個人的な印象を述べてしまいましたが、マンションオーナーとして居住者のプライバシーは断固守るという姿勢も感じられ……あっ、きゃっ、セイロンガー氏がいらっしゃいました。今からいよいよ、セイロンガー氏のご自宅へ訪問したいと思います!』
「はい、ありがとうございます。また準備出来ましたら中継を繋ぎます。一旦CMです」
⸻CM中⸻
司会者がサブのディレクターに確認する。
「なぁ、今の大丈夫? 完全にスターお宅訪問みたいになってたけど。きゃっ、だって高柳さん。代わりの男性リポーター行かせた方が良くない?」
イヤフォン越しにディレクター。
『いやいや、めっちゃ面白かったから全然OKっす。普段真面目な高柳さんがあんな目がハートになるんすねぇ。まぁ、相手はどうせ何の容疑もないクセ強ヒーローなんで、あっ、他局はCMぶち抜いて中継してるわ、ミスった!』
(相手はVVEIが潰しにかかる男だぞ、コイツみたいに、あんまり甘く見てると痛い目見ると思うがなぁ……)
ベテラン記者出身の司会者は内心思ったが、黙っていた。




