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ど正論ヒーロー セイロンガー  作者: 月極典


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87/113

正論(87)セイロンガーは孤独ではない


「こんなのってないよ! セイロンさん、何も悪いことしてないのにひとりぼっちで帰らせるなんて、酷いよ!」

 涙を流して抗議する真由美。セイロンガーは真由美の両肩に優しく手を置いた。華奢な真由美の肩が震えているのが伝わってきた。

 

「真由美さん、ありがとう。その真っ直ぐな気持ち、私の心に深く刻まれた。だが、私の任務は君の護衛だ。私が原因で君を世間の荒波に晒すことは絶対にできない。わかってくれるね?」


 ひっく、ひっくと嗚咽する真由美、言葉をなんとか口にした。

「わかりました、セイロンさん……私、何があってもセイロンさんの味方だから!」

 真由美の目からまた涙が溢れ出る。


 トゥエルブは泣きじゃくる真由美を抱き寄せて、

「そうです、セイロンガーさん。ここにいる全員があなたの潔白を知っています。何かあれば微力ながら力になりますから」

 

 マリンも続く。

「うんうん、私も管轄違うけど今からその偽物ふんづかまえて、ギッタンギッタンにしてやりますよ!」

 笑顔でそう言って力強く拳を握って見せる。


「ありがとうございます、心強い限りです。それから、大曲博士と江口さん、何やら嫌な予感がするので2人だけで帰らずIHAの保護を受けた方が良いでしょう。最悪、VVEIに2人の行動がバレている可能性もあります。憂響さん、お願いできますか?」


「もちろんだ。明日は幸い日曜日だ、2人と真由美の3人にはトレセンの宿泊施設に泊まってもらう。セイロンガー君もそうするかい?」


「いえ、私は張本人ですから雲隠れするのは悪手でしょう。それに、私は世間に対してなんら恥じる行為はしていない。何食わぬ顔で帰ります」


「ふっ、さすが豪胆だな。わかった、では出口まで送ろう。みんな、50m走でIHA新記録を出したセイロンガー君を拍手で見送ってくれ!」


 パチパチパチパチ!


 拍手の中、トレーニングアリーナを出るセイロンガーはIHAの温かい対応に感動、感謝し、深く一礼した。


 セイロンガーを見送った大曲博士はスマホを取り出し、社内メッセージを開いた。新着のサインが点滅するアプリを開くと、明日、日曜日にも関わらず出社指示が来ていた。研究開発部門では滅多にない休日出勤要請だった。

「江口君、これ。君にも来ているかい?」


 江口麻里もアプリを開き、同様のメッセージが来ていることを確認して頷いた。

(大変なことになった、雪菜先輩は大丈夫かな……)

 水沢雪菜は江口麻里同様に大曲からIHAへの移籍を打診されていたが、保留している。しかし、状況的にVVEIから疑われてもおかしくない。


 心配になった麻里は雪菜にオンライン電話をかけた。

『雪菜先輩、今どこですか?』


 雪菜は待っていたかのようにすぐに電話に出た。

『今、買い物中なんだけど、なんか管理人さんの偽物が出てヤバいんだけど。マリリンなんか知ってる?』

 

 麻里は大曲博士とIHA施設にいること、先程までセイロンガーと一緒だったことを伝えた。


 それを聞いた雪菜は不思議そうに言った。

『あれ? でもおかしいな、管理人さんが前から来るんだけど……』


 !!!

 

『そんなわけない! それ偽物!』

 麻里が叫ぶが、遅かった。

 電話の向こうで小さく男の声が聞こえる。

 

『ミズサワユキナサン、デスネ?』

 ガサガサ、ポーン……

 無情にもオンライン電話は切れた。

 

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