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ど正論ヒーロー セイロンガー  作者: 月極典


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85/113

正論(85)異変2


 土曜日昼の繁華街。

店が立ち並ぶ大通りは歩行者天国となっている。数多くの家族連れ、カップルなどで賑わっている。


 ジリリンッ! ジリリンッ!


 自転車のベルが鳴る。ここは自転車の乗り入れは不可ではなかったか。歩行者は迷惑顔で、脇に避ける。


 自転車とは思えぬそのスピードは電動アシスト自転車の制限速度24キロを優に超え、50キロに迫るかに見えた。ノーヘルの30代と思しき、サングラスをかけた男性が運転している。

 

 マウンテンバイク型のその自転車に違法な改造が施されているのは、ほとんどペダルを踏んでいないことからも明らかであった。


 人混みが避けた先、前から赤いヒーロースーツの男がゆっくりと歩いてくる。

違法改造自転車に乗った男は、ヒーローらしき見た目に自然とその方向を避けた。


 しかし、赤いヒーロースーツの男はスタスタとスピードを上げながら自転車に近付き、すれ違いざまにローリングソバット(飛び後ろ回し蹴り)を運転する男の胸板に放った。周りで目撃した証人によると、すれ違う瞬間、赤いヒーロースーツの男は、「チョット、スイマセン」と言ったという。


 違法改造自転車に乗った男はもんどり打って後頭部から地面に叩きつけられた。

主を失った自転車はそれでも止まることなく走り続けた後、ガッシャンと重い音を立てて倒れた。誰も巻き込まれなかったのは不幸中の幸いである。


 赤いヒーロースーツの男は、倒れた運転手に近づくと髪の毛を掴んで頭を持ち上げカタコトの奇妙な発音で言った。

「ワタシ、セイロンガー言イマスケド、アナタ、ココハバイシクルダメ、知リマセンカ?」

 

「…………」

 運転手は頭から血を流してぐったりしている。


 セイロンガーと名乗る男は、かかったままのサングラスを外して、

「シカモ、アノバイシクルハ、スピードオーバーデスヨ? アレ、死ニマシタカ?」


 そこへ、巡回中の警察官が2人現れた。

「ちょっと開けて下さい! どなたか救急車呼ばれた方いますか? あぁ、ありがとうございます」

 

 倒れている運転手の様子を見る。

「まずいな。君、心肺蘇生、俺は頭部の止血をする」

 部下に指示を出す。


 赤いヒーロースーツの男が去ろうと静かに歩き出すのを見た警察官。

「ちょ、ちょっと待って下さい! あなたIHAのヒーローですよね? 事情を聞きたいので待っていて下さい!」


「ワタシノ名前ハ、セイロンガー。ソノ男ハ、違法バイシクル運転ノ報イヲ受ケタニ過ギナイ。ソレデハ、正義ノ執行デ忙シイカラ失礼スル」

 セイロンガーと名乗る男が冷たく言い放つ。


「いやいや、そういうわけには!」


「ワタシ、ナニカ間違ッタコト言ッテマスカ? ワタシノ名前ハ、セイロンガー。文句ガアルナラ、イオキベトシオニ聞キナサイ」

 警察内部において、五百旗頭壽翁の影響力は絶大だ。それは末端の警察官にまで行き渡っている。警察官は人命優先で頭部の止血をしながら躊躇した。

その間に赤いヒーロースーツの男は姿を消していた。


 ◇


 同じ頃、IHA東京トレーニングセンター。


 トレーニングアリーナでは50m走を終えたセイロンガー、それにマリン、トゥエルブ、真由美が和やかに話しながら、スタート地点に戻ろうとしていた。


 スタート地点では、五百旗頭憂響センター長が電話している。

「あぁ、勿論こっちにいるよ兄さん。と言うか今、目の前で50mの新記録を叩き出したばかりだ。うん、うん、えっ? まさか、そんな馬鹿馬鹿しい!」


 暫く話していた憂響が電話を切った。

「何かありましたか? 憂響さん」


 憂響が緊張した面持ちで答える。

「セイロンガー君、君の偽者が現れ、一般市民に危害を与えているらしい」

 

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