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ど正論ヒーロー セイロンガー  作者: 月極典


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82/113

正論(82)頑張って


 50m3秒82のIHA史上、男女を通じて最速記録を出したホワイトピーチマリン。ヒーローマスクを脱ぎ、タオルで汗を拭きながら明るくトゥエルブに話しかける。

「トゥエルブ氏〜」


「マリン先輩、お疲れ様でした! 凄い記録作りましたね?」


 楽しげなマリンは口元に手をやり、

「それはまぁ良いんだけどさぁ、あれ見てよ真由美お嬢様。セイロンガーさんの後ろから、甲斐甲斐しくタオル持ってピョコピョコ早歩きでついて行くの、可愛いよねぇ。歩幅が合わないからピョコタンピョコタン、ピョコピョコって、あ〜〜効果音付けたい……」


 トゥエルブは小声で答える。

「あははっ、セイロンさんの隣は絶対譲らないゾって感じですよねぇ。でも、前はもっと引っ込み思案であまり部屋から出ない、読書ばかりしているような子だったんです。セイロンガーさんが送り迎えするようになってずいぶん積極的になりました」


「いいなぁ、アオハルだなぁ、使い方合ってる?」


「自分はちょっとわかんないっす、すいません」

 若者言葉にあまり詳しくないマリンとトゥエルブであった。


 スタート地点の江口麻里は驚愕していた。マリンが見せた走りは正に特撮の世界だった。

(なーーんアレ、現実に集中線見えたの初めてだわ。管理人さん、いや、セイロンガーさん、頑張って。あんな被りキャラなんかに負けないで、もう少し、最後まで走り抜けて、どんなに離れてても、心はそばにいるわぁ。なんちゃって)

 被りキャラ……。まだ言ってる自称白い恋人ホワイトマリリンである。


 セイロンガーがゆっくりとスタート地点に戻った。

 

「それでは、スピード設定に変えてくれるかな? それにしてもリラクゼーションモード好きだね、君は」

 大曲博士がスーツを振動させながら戻ってきたセイロンガーに設定変更の指示をする。


「了解した」

 セイロンガーは片膝をつき、腰のベルトのDIPスイッチを操作し、リセットを行いスピード設定に変更する。


「これは……」

下半身、上半身、体幹の各筋肉がスーツのサポートを受け増強されていくのがわかる。


「すまないが少しウォームアップに時間をかける必要がある。肉体の変化に身体が耐えきれずに怪我をするかもしれない」

 そう言ってセイロンガーは開脚し、上半身をべたりと床につける。立ち上がり、屈伸、スクワット、ジョグをしながら膝を前に上げ、横に回し上げ、前に上げる。次に、細かなステップを踏みながら後ろへ下がる。

現役のランニングバックだった頃を思い出しながら、入念に身体を順応させていった。


「うわぁ、さすが元アメフトの選手だなぁ。ウォームアップが素晴らしいよ」

 ゴール地点からマリンが遠目でセイロンガーの動きを見て感嘆する。


 ウォームアップを終えたセイロンガーに、真由美がタオルと飲み物を持って駆け寄る。

「セイロンさん、タオルです!あと水です!」


「ありがとう、真由美さん。助かるよ」


「あの、怪我しないように、頑張ってください!」

 真由美は祈りを言葉にした。

 

 それに対してセイロンガーは静かに頷き、身体を叩きながらスターティングブロックに向かう。


「憂響さん、大曲博士。初めてのカスタムだ、身体に異変があればすぐに中止する。構わないか?」


「あぁ、構わない」

 と、五百旗頭憂響センター長。


「ある程度で流すだけでも、実感できるはずだ」

 自信ありげな大曲博士。


「では、始めようか」

 セイロンガーはゴール地点を見据えながらスターティングブロックに足をかけた。

 

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