正論(80)元アメフトRBの実力
五百旗頭憂響に呼ばれ短距離トラック前に走って来たトゥエルブ。だいぶ遅れて真由美。
トゥエルブは憂響に向かって敬礼する。
「お待たせしました」
そして遅れて着いた真由美も、なぜかトゥエルブを真似て胸を張って敬礼した。
真由美は半袖の体操着、下は小豆色のハーフパンツ、白いハイソックスに履き替えた学校指定の体育館シューズという格好。ついでに左胸には『五百旗頭』の名札が付いている。
「なんで真由美まで敬礼するんだ」
憂響はあまりの似合わなさに笑いをこらえながら言った。
ストレッチをしていたマリンが立ち上がる。
「うふっ、可愛い。真由美お嬢様初めまして、ホワイトピーチ・マリンです。五百旗頭道場にはよく行きますがお嬢様が学校に行っている時間が多いので……」
マリンは自己紹介をして両手を差し出した。
「あ、はい!初めまして、真由美です!」
真由美は元気良く挨拶し、マリンに両手で握手した。
マリンはトゥエルブに視線を移す。
「トゥエルブ〜、久しぶりかなぁ? いつも警備任務お疲れ様!」
「お久しぶりです。マリン先輩の活躍はシャドウズでも話題になっています」
トゥエルブは会釈しながら答えた。
そして、その様子を後ろから眺める江口麻里。
(また出たよ、タイプ違いの新たなる美女。IHAの顔面偏差値の高さ、どうなってんの? 絶対顔で採用してるだろ。それに引き換えVVEIは出所したての格闘おじさんとか、太鼓の達人ゴリラとか、涎撒き散らし男とか、寿司ネタ軍団とか……言ってて悲しくなってきたわ。あっ、そうか……だから私は引き抜かれたのかぁ、なるほど、なるほど)
真由美はマリンの後方にいる麻里を見ていた。
参院選後の石◯総理みたいな表情から、今のムフフ顔にコロコロ変わる表情。私を攫ったこの人、もしかしたら面白いお姉さんなんじゃないかと思った。
そして、その隣で真由美を慈しむような表情で見つめる白髪のツンツン頭のおじさんが気になった。
五百旗頭憂響はトゥエルブにストップウォッチを渡して50m走の計測を頼んだ。
「では、セイロンガーくん。良いかな?」
「問題ない」
スターティングブロックに脚を置いてクラウチングスタートの体勢に入るセイロンガー。
50m走は正式競技ではない。世界記録はボルトが2009年、100mの途中経過で記録した5秒47、女子はジョーンズが、やはり100mの途中経過で記録した5秒93である。
「On your marks.」
「Set.」
静寂が訪れる。周りでトレーニング中のヒーローたちが短距離トラックに注目する。
パンッ!
スターターピストルが鳴った瞬間、セイロンガーが前傾姿勢で猛然と加速する。
風を切り裂きながら徐々に姿勢を起こしていく。強い腕振り、高く上がった膝。米留学の大学時代、アメフトのランニングバックでプロのスカウトから声がかかった抜きん出たスピードと加速力。それがノーマルとは言え、ヒーロースーツのサポートを受け驚愕の記録を叩き出した。
「4秒98!」
トゥエルブが記録を叫んだ。スタート地点で憂響は腕で大きく丸を作って答えた。マリンも拍手してから、親指を立ててサムズアップする。
「さすがです、セイロンガーさん。ノーマルで5秒切る人なんて見たことありません」
トゥエルブが驚きと共に握手を求めた。
「ありがとうございます。この姿で記録を測ったのは初めてなので比べようがありませんが、30代のおじさんにしてはまぁまぁ、と言ったところですかね」
セイロンガーは自虐を入れながら答えて、握手した。
「セイロンさん!」
真由美がタオルとスポーツ飲料を持って駆け寄ってきた。
「すごいすごい、ビュンッって風みたいに速かったです! ちなみにさっき測った私の記録は8秒55です!」
真由美は歓喜しながら、なぜか自分の記録まで伝えた。
「ほう、8秒台は結構速いんじゃないかな?」
タオルと飲み物を受け取り、真由美を褒めるセイロンガー。
「はい、真由美お嬢様の最初の記録は10秒55だったので、2秒近く短縮したんです。本当に頑張りました」
トゥエルブは正直に包み隠さず伝えた。
「もう、お姉さん。最初の記録は言わなくて良いのに……」
次は、スピード設定のホワイトピーチ・マリンの番だ。




