正論⑻ VVEI
真由美です。
これから、晩御飯なんですが、ひとつ気掛かりなことがあります。
「あの……セイロンさん、マスクしたままで食事はどうされるんですか?」
「この口元は開閉式になっている。心配は無い」
あ、うぃーんかしゃんって開きました。
「ふむ、見事なシステム。流石は大曲博士、と言ったところですかな」
「やはり、気付いてらしたのですね。私がヒーロースーツを脱がない、いや、脱げない事を指摘されないので不思議に思っていたのですが」
「セイロン君の事、言える範囲で話してもらえるかな?」
「はい……私は米国の大学院を卒業後、日本に帰国し外資系の投資会社でファンドマネージャーとして働きました。その顧客のひとつにVVEI、ヴィランヴィランエンパイアインターナショナルがありました」
悪の組織と言う事を全然隠すつもりが無い社名……。
「会社は悪の組織そのもので、社員は赤か黒の全身タイツ姿、上司は怪人、窓口だった投資担当役員は守銭奴大佐と呼ばれていました」
「社員はやはり奇声を発していたかね?」
「はい、とは言え返事がイーッなだけで、他は普通に日本語で会話していました」
「イーッでは外線の電話対応が出来んからな」
「ちなみに、黒タイツが非正規、赤タイツが正社員で分けられていたようです」
「世知辛いな」
「ある日、投資顧問として社内インフラの確認の為、怪人改造部門を訪れていたのですが、そこで守銭奴大佐から催眠術で眠らされ、気付いたら手術台に拘束されていました」
「催眠術……5円玉ゆらゆらかね?」
「はい、馬鹿馬鹿しいと思いながら見ていましたが、どうも相手は催眠術の手練れだった様です」
「やんぬるかな」
「そこで出会ったのが改造担当の大曲博士です。
私は大学時代から夏季は野球、冬季はアメフトでランニングバックをしており、また武道ではジークンドーを習って街の道場で師範をしていました。それを知っていた大曲博士は私を新たな改造技術の実験台に選んだのです」
「闘えるボー・ジャクソン……やんぬるかな」
お父さん、口癖の「やんぬるかな」が連発してる……。ところで、ボージャクソンって誰だろう?
「結果、この姿になった訳ですが、最後に脳改造するにあたり、同意書が10枚必要でしたが、私は全てサインを拒否しました」
「全身改造して断れない様にしてから脳改造の同意書を取るとは悪どい」
「はい、脳改造等しなくても私は能力を発揮出来るし、御社の計画に納得出来たなら協力しよう、と言って拘束を解かせました」
「君の事だ、完膚なきまでに言い負かせたのだろう?」
「はい、法律論から昨今のハラスメント事情の側面を突いて相手の説得を完全に論破し、守銭奴大佐の目は真っ赤でした」
「善き哉」
あ、「よきかな」出た……。
「そして、私は歩いてVVEIを後にしました。会社の計画を聞く約束だろうとすがる守銭奴大佐に、これ以上私に関われば30億規模の損害賠償請求をVVEIの本社があるアメリカ本土で起こすと捨て台詞を残して」
「投資会社はどうしたのかね?」
「元々、個人投資家として蓄えはありましたので退社しました。ヒーロースーツのままでも良いからと説得されましたが」
「それで今のマンション経営に」
「はい、この姿で一般企業に勤めるのは何かと煩わしいので」
じっと聞いていたお母さんが言葉をかけました。
「でもその姿、私は素敵だと思うわ。凛としている貴方の立ち居振る舞いはとっても好感が持てる。まるで本物の漫画のヒーローみたい」
「……恐縮です」
「さぁ、ご飯が冷めてしまうから頂きましょう。あなた、乾杯して」
「そうだな、それではセイロン君が真由美の専属ヒーローとなった事を祝って」
「かんぱ〜い!」
明日からセイロンさんと登下校だ。楽しみ過ぎて今日眠れるかなぁ……。