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ど正論ヒーロー セイロンガー  作者: 月極典


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78/113

正論(78)ホワイトピーチ・マリン


 IHA東京トレーニングセンター。


 トレーニングアリーナに向かう通路をセイロンガーを含む面々が歩いてくる。どこぞの大学病院の総回診のようだ。

前にセイロンガーを中心として向かって右に五百旗頭憂響センター長、左に先程紹介されたホワイトピーチ・マリン。その後ろに大曲博士と江口麻里である。


「そうですか、マリンさんはまだお若いのですね」

 セイロンガーとマリンが、自己紹介がてらの世間話をしている。彼は初対面だからといって物怖じすることなく接することが出来る。それはサラリーマン時代の経験というより、元来持つ気性故だろう。


「はい、24です。高校生までブラジリアン柔術やってたんですけど、大学時代、知り合いに『バタリヤ』ってステゴロ実戦に特化した武術を紹介してもらったんです」

 『バタリヤ』ブラジル地下格闘界伝説の男、ロドリゴ・バルローザが古今東西の格闘術からより実戦的な技術を抽出し体系化した近接格闘術である。


「ステゴロ実戦……バタリヤって聞いたことない武術ですね。フェアバーンシステムみたいなものでしょうか?」


「はい、フェアバーンシステムのブラジル版です。地下格闘家養成所みたいな所なので一般的な知名度は皆無ですね。手刀や肘で喉元や頸動脈への打撃、指先による目潰しとか、金的とか何でもありでした。まぁ私に金的は効かないんですけどね、アハッ」

 ここのところ、金的というワードを嫌というほど聞いてきたセイロンガー。真佐江の顔がふと浮かんだ。


「ふむ、それで何でまたヒーローに?」


「親に相談したら、地下格闘家は不随や死亡率が高いから駄目、ヴィラン系企業は変な怪人に改造される可能性があるから駄目、ヒーロー系企業は改造無し、ヒーロースーツ支給、高待遇で競争率は高いけど、お前の戦闘能力ならイケるだろうって言われて……」


 後ろから勝手にライバルに指定したマリンをじと〜っと睨んでいる江口麻里。

(何なんだこの娘は、可愛い顔して経歴も志望理由もついでに親までぶっ飛びすぎじゃない!? 金的は効かないんですけどね、アハッじゃない! ぐぬぬぅ……)


 となりから妙な唸り声を聞いた大曲博士。

「江口くんどうかしたのかね? ぐぬぬぅって腹を空かせた熊みたいに唸って……」


「わっすいません! 何でもないです……」

(危ない、声に出てた……って博士、女子に熊って失礼だわ!)


 マリンがなお会話を続ける。任務以外でのヒーロー同士の会話が楽しいようだ。

「先生はジークンドーの師範代でいらっしゃるんですよね?」


「アメリカ西海岸の小さな町道場ですが……。それと、先生呼びはやめて下さい」


「すいません、師範って聞くとつい先生って呼ぶ癖が抜けなくて……。あの、ジークンドーもどちらかというと実戦的で金的も狙いますよね?」


「はい、流れの中で狙えるならどこでも狙います。そういった意味では近いものがあるかもしれませんが、私がやってきたのは打撃中心なので、関節系の決め技はマリンさんには敵いません。組み手があるようならお手柔らかにお願いします」


「そうだ! 私、五百旗頭道場によく行くので、関節の稽古の相手になりますよ。そのかわり、打撃を教えて下さい。やっぱり、初手で大事なのは打撃ですから!」


「それは良いですね。五百旗頭邸は近所なんで是非、誘って下さい」


 もはや、調整室に続いて白目になっている麻里。

(おのれ、小娘。中々にやる……。しかも、話が盛り上がっている。管理人さんもよく喋る。なにさ、デレデレしちゃってさ! グォォォッ)

 

 セイロンガーは普通に会話しているだけで、決してデレデレはしていない。


(グォォォッて……そうか、江口くんはマリンに嫉妬しているのだな? 大丈夫だ、君には君の魅力がある。そんなに白目むいて熊みたいに嫉妬に狂っては君の良さがセイロンガーに伝わらないぞ?)

 大曲博士は黙ったまま、麻里の肩に手を置き、わかっていると言うように頷いた。


「着いたよ、セイロンガーくん。ここがトレーニングアリーナだ」

 五百旗頭憂響がIDカードで自動ドアを開いて中へと案内する。


 セイロンガーが中に入ると広いアリーナの奥に見知った顔が2人。真由美とトゥエルブだ。

2人はセイロンガーに気が付いて手を振っている。真由美に至っては両手で飛び跳ねる勢いだ。


 セイロンガーは照れたように控えめに手を振り返した。

 

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