正論(73)DIPスイッチ
白い恋人ホワイトマリリンこと!江口麻里です。
こちら、わけのわからない入館方法でやってきたIHA東京トレーニングセンターです。ほとんど小旅行でした……。
ここ、山の中に建っているのではなく、山の内部らしいです。総工費いくらくらいなんでしょうか?こんな施設を作る組織が相手だなんて知らされてませんでした。私、改造はされてませんけどボンテージ着て鞭持って外勤でヴィランやってたじゃないですか、覚えてます?
一応、高校、大学と武術の心得はあるんですけど、VVEIってまともな訓練施設が無いんですよ。それに比べて、なんですかここ。トレーニングアリーナ、武道用アリーナ、プール、アスレチックジム、サウナ付き浴場、タンニングルーム……ってゴール◯ジムかっ。日焼けいる? ヒーローって素肌出す?
あっ今、管理人さんことセイロンガー様が五百旗頭真由美と車で到着したみたいで、こちらに向かっているそうです……っておぃなぜ、真由美がいるんだっつうの!
ここは女子高生が遊びに来るテーマパークじゃないでしょうが。社長令嬢だからって土曜日まで管理人さんを独り占めしよってからに! こっちはマッドサイエンティストのおじさんと登山やぞ? 電車、バス、登山やぞ?
ウィーーン
来る!
扉が開いて、先程紹介された五百旗頭憂響センター長に連れられて来ました管理人さん。
白いTシャツにジーンズ……。ジーンズにインだと!?
なんかわからんけど、懐かしい着こなしな気がする……。
だが、それも良い。管理人さんは館内掃除用の作業着(薄緑色)だって素敵なんだから……ねっ。
「江口さん……」
勝った。大曲博士ではなく、まず私に注目した管理人さん。でも、さすがに驚いてるかな?
「それに大曲博士。悪びれず敵の本拠地にいるということは、移籍か、それとも最初からIHAの所属かのいずれか、かな?」
冷静に分析する管理人さん。
「後者だ、赤い稲妻。だが、勘違いしないで欲しい。君を改造したのは五百旗頭社長の指示ではない」
へらへらしていた大曲博士が真剣な表情に変わって説明を始めました。
「当時、赤い稲妻計画を研究していた私はついに、そのスーツを完成させた。しかし、肝心の対象となる人物が居なかった。運動能力、知性、そして何より正しい心を持つ者」
博士、VVEIでその人物を探すのは無理があるのでは?
VVEIってクズかチンピラかきんぴらみたいなのしか来ないから。
「VVEIに連れて来られるのは、まぁ質が低く、赤い稲妻スーツに足る人物は期待出来なかった。そこへ現れたのが投資ファンドのセールスマンである君だった……」
◇◇◇
あの時……。
君は守銭奴大佐の催眠にかかり、私の元に連れて来られた。
「曲っち、いいの連れて来たよ。頭が良くて運動能力が高く、武道の達人だぁ!」
「大佐、そんな奴が君の5円玉ゆらゆらに引っかかるかね?」
「彼ね、すっごい真面目なんだよ。僕が催眠術が得意だって言ったら、後学の為に体験したいって真剣に5円玉見始めたの。凄い集中力でね、気がついたら寝てた」
「少し間が抜けてないか?」
私はまだ信用出来ないでいた。
「頭は切れるけど、とにかく馬鹿正直なんだよ。投資ファンドの担当としてはどうかと思うけどね。それより、彼の経歴が凄い。大学時代、夏季は野球、冬季はアメフトのランニングバック。どっちもプロのドラフトにかかる寸前だったんだが、それを蹴って大学院で経済を専攻したそうだ。武道ではジークンドーの師範らしい」
「ジークンドー、ブルー◯リー……」
私は、ブルー◯リーのファンだった。しかも、NFLとMLBを視聴する為のスポーツ配信の有料会員でもある。
「まるで野球とアメフトの二刀流だったボージャクソン、いやそれを上回る三刀流……」
決めた、彼を赤い稲妻にするのだ!
◇◇◇
「というわけでね、君は私の理想とする人物だった。しかしだ、目を覚まして君がVVEIに加担するリスクも当然ある。だから、そのスーツの真の力を発揮する為のDIPスイッチに関してはマニュアルから削除しておいたのだ」
おぉ、管理人さんが更に強くなる秘密のスイッチ!
それにしても、回想の守銭奴大佐、軽っ!
「DIPスイッチ……ベルトのボックス内部の蓋を開けると並んでいる小さなスイッチだな?カスタマーサービスに何度も聞いたが回答は得られず、博士、貴方に聞いてもメンテナンス用だから手を触れないように言われていたものだ。私は正規の保守が受けられなくなる可能性を考え、ノータッチだった……」
管理人さんのそういう生真面目さ、好き。
「まぁ、20個あるスイッチの組み合わせは複雑だからね。適当にオンオフしても効果は得られんよ。五百旗頭社長の指示により、これからその機能についてレクチャーしよう」




