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ど正論ヒーロー セイロンガー  作者: 月極典


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71/113

正論(71)セイロンガーを待つ者


 IHA東京トレーニングセンター。

真由美、トゥエルブと別れたセイロンガーはセンター長五百旗頭憂響に案内されて、通路を進んでいた。


 五百旗頭憂響、年齢は40代後半くらいだろうか、五百旗頭壽翁よりだいぶ若く見える。その肉体が鍛え上げられていることはスーツ姿の上からでもわかる。そして前を歩くその隙の無さから彼が武に秀でていることが滲み出ている。

 

 通路右手には緑豊かな見事な中庭が見える。到着したのは地下だったはずだが、吹き抜けにでもなっているのだろうか?

「ここは地下ではないのですか?」


 セイロンガーの問いに中庭を指差しながら憂響が答える。

「あぁ、あの中庭は天井のLED照明で陽の光を作り出しています。ここは山の内部ですが、そうは思えないでしょう?」


「なるほど、壽翁さんならではの設えですね」


「兄は庭いじりが趣味ですから。……そう言えば、先日のヴィラン組み手と夜のヴィラン襲撃の一戦、撮影された映像を見させて頂きました」

 五百旗頭邸道場で繰り広げられた壮絶な一連の戦い。それはシャドウズによって全てカメラに収められていた。


(気付かなかった……。シャドウズの実力、恐るべし)

「そうですか、撮影されていたのですね。如何でしたか?」


 セイロンガーは自身の戦闘についての評価を聞いたつもりだったが、憂響は破顔して答えた。

 

「いやぁ、最高に面白かったです。久しぶりのビーハイブのキメポーズからの電撃タッチダウン……兄が真佐江姉さんのお尻叩いたでしょう? ペシッ、いやんって。あれ、昔から毎回やってるんですよ」


「いやあの、そうではなく……」


「あぁ、申し訳ない。セイロンガーさんの戦いも勿論、じっくりと見ました。ノーマルスーツであれ程の動きが出来るのは素晴らしい」


「ノーマルスーツ……?」

 

(ノーマルじゃない状態がこのヒーロースーツにあると言うのか。この状態でも十分パワーアップ出来ているが……)


「ええ、今向かっている調整ルームである人が待っています。その辺の話はその方から聞くのがよろしいでしょう」

 

(ある人……。ふっ、まさかな。ここはヒーロー側の中心部だ、改造した張本人が待っているわけでもあるまい)


 やがて、セイロンガーは歩きながら、憂響の後ろ姿にふとした疑問を投げかけた。

「ところで、憂響さんもヒーローでいらっしゃるので?」


「わかりますか? グリーンマンティースとして兄や義姉と共に活動していました」


「グリーンマンティス……聞いた事ある名ですね」


 憂響はいきなり振り向いて言った。

「そうなんです!某ヒーロー番組に出てくる凶悪な怪人と同名だと知ったのは後のことでした。エゴサしても絶対にそいつが先に出てくるので改名しました。グリーンマンティースに」

 グリーンマンティス、人造人間キカイ◯ーに登場する悪のアンドロイドである。インパクトのある見た目の為か、予算の関係か、爆発したのに再登場も果たし、また玩具化もされている。同名でエゴサ勝ちするには相当な活躍が必要である。


「エゴサ……まぁ名前に昆虫付けると被る事が多いでしょうね……。憂響さんのヒーロースーツも見てみたいものです」


 言われた憂響が嬉しそうに語り出す。

「そうですか?後で見せましょう。私のは両腕が鎌になりましてね、鎌の部分でスパッとやらずに二の腕のトゲトゲで切り付けると中途半端に傷が出来て痛いんですよ。全然治らないし、なんなら神経毒をそこから分泌することも可能なんです。エグいでしょう?」


「エグい……ですね」

(口には出せんが、まるで怪人ではないか)

 さすがのセイロンガーも、嬉々としてそれを話す憂響にドン引きざるを得なかった。


「はい、着きました。こちらが調整ルームになります」

 憂響に続いて、セイロンガーが中に入ると聞き覚えのある声が響いた。


「やぁやぁ、赤い稲妻セイロンガーくん、いらっしゃい」


 そこには、笑顔の大曲博士と複雑な表情の江口麻里がいた。


「江口さん……」

 セイロンガーの驚きの第一声は大曲博士ではなく、江口の方だった。

 

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