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ど正論ヒーロー セイロンガー  作者: 月極典


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64/113

正論(64)シャドウ012 田中町子


 翌朝、土曜日の五百旗頭邸前。

五百旗頭壽翁、妻真佐江、長女真由美の3人が立っている。


 ボボボボ……ボボボボ……ヴォン……ボボボボ……ボボボボ……ヴォンヴォン……。


 曲がり角の向こうから空気を震わせるエンジン音が聞こえる。

「真由美、来たようだぞ」


「うん!」

 真由美は半袖の体操着、下は小豆色のハーフパンツ、白いハイソックスに白い学校指定のスニーカーという格好だ。本当はお気に入りのワンピースで出掛けたかったが、母の真佐江が『ワンピースじゃ運動出来ないでしょ?』とダメ出ししたのである。


 赤いスーパーカーがゆっくりと角を曲がって現れた。フロントガラスにセイロンガー見える。


「きゃーーっ、セイロンさぁん!」

 真佐江が歓声を上げた。


「もう、お母さん。芸能人の出待ちじゃないんだから、近所迷惑でしょ!」

 真由美が年甲斐もなくキャピつく母親を諌めた。


「そうだよ、真佐江ちゃん。ちょっとイラッとしたぞ?」

 壽翁の場合は単純なジェラシーである。


 ボボボボ……ヴォンッ。

 左のシザードアが開いてセイロンガーが降りてきた。

白いTシャツに細身のジーンズ、白いコン◯ースのハイカットというスタイルだ。もちろん、シャツはジーンズにインしている。そして、お忘れかも知れないが、その下は全身赤いヒーロースーツである。


「きゃっ、◯田栄作みたいっ!カッコいいわぁ、セイロンさん……」

 真佐江は口に両手をやり、うっとりとしている。


「吉田栄◯って誰よ、お母さん」

 真由美は元祖白Tシャツを知らなかった。


「そうだよ、真佐江ちゃん。僕には加◯大周に見えるがね」

 壽翁はジェラシーついでに色々あった元芸能人の名前を出した。


 そんなやり取りがあったとは知らず、セイロンガーは爽やかに挨拶した。

「おはようございます、皆さん。お、真由美さんはやる気マンマンだな?」

 

「そんな、お母さんに言われて無理やりこんな格好なんです……」

 恥ずかしそうに胸元に大きく縫い付けられた『五百旗頭』という名札を隠す真由美。


「あら、全然おかしくないわよ、ねぇセイロンさん」


「はい、運動するならベストな格好だと思います。若干、遠足っぽくは見えますが……」

 正直なセイロンガーだった。


「ほらぁ!」

 真由美が地団駄を踏んでプンスカした。


 ヴォンヴォン……

 その時、五百旗頭邸右の車庫から一台の黒いバイクが現れた。乗っているのは漆黒のヒーロースーツに身を包んだ女性。顔はヒーローマスクで隠れて定かではない。


「セイロンガーさん、真由美お嬢様。本日、トレセンへ同行致します、シャドウトルーパーズ所属シャドウ012です」

 女性は礼儀正しく挨拶した。引き締まった身体にピッタリとしたヒーロースーツが映えている。レーサータイプの大型バイクに跨る姿も様になっていて美しい。


 真由美は声を聞いて気がついた。

「その声は、いつも近くで警備してくれているお姉さんの1人……」


「はい、お嬢様。一昨日の可愛いアレ、今日はちゃんと持って来ましたか?」

 一昨日の夜、部屋を抜け出した真由美を優しく連れ戻したシャドウズこそ彼女だった。


「はい、リュックに入ってます!」

 真由美が背負っている学校指定のリュックの中にはタオルや飲み物の他、彼女が作ったセイロンガーのぬいぐるみが入っている。


「そうですか、きっと喜んでくれますよ。では、セイロンガーさん私がトレセンまで先導致します。社長、奥様、行ってまいります」


「うむ、頼んだよ」


「よろしくねーー、まちこちゃん!」


「真佐江ちゃん、本名で呼んじゃダメって言ったでしょう」

 

 シャドウ012こと『田中町子』がバイクを発進させ、セイロンガーのスーパーカーがそれに続いた。


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