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ど正論ヒーロー セイロンガー  作者: 月極典


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61/113

正論(61)翌朝サンルームにて


 五百旗頭邸襲撃の翌朝、セイロンガーは早めに真由美を迎えに来ていた。

 

 2階のサンルーム、真佐江がアイスコーヒーを運んでくる。昨晩のハニービーの時とは別人のように爽やかな笑顔で挨拶する。


「はいはい、おはようセイロンさん。昨日はおつかれサマンサフォックス〜なんちゃってぇ」


(サマンサフォックス、確か80年代の歌手だったか……よくは知らんが)

 懐古厨のセイロンガーもその時代のポップスには疎かった。


「おはようございます、真佐江さん。昨晩の活躍は素晴らしかったです。お疲れではありませんか?」

 セイロンガーは真佐江の身体を気遣った。元ヒーローとは言え引退した身の真佐江にはハードな1日だったはずだ。


「何をおっしゃいますやら、あれくらい現役当時と比べたら何でもありませんわ。今でも体型維持の為に毎日スクワット1000回、懸垂、腹筋500回は欠かしておりませんのよ?」

 体型維持……男子プロレスラー並みのトレーニング量だが?セイロンガーは若干ドン引きしながら、チラッと真佐江の半袖から出る上腕と前腕の筋肉を見て納得した。主婦には似つかわしくない筋肉の盛り上がりと浮き出た血管、日々のトレーニング量が伺われる。


「真佐江ちゃんも一緒にどうだい?」

 壽翁が誘う。爽やかな朝に繰り広げられる穏やかなやり取りに、昨晩のビーハイブ奥義電撃タッチダウンが脳内で再生されたセイロンガー。


「あら、いいの?って自分の分も持ってきたんですけどぉ」

 壽翁に言われなければ勝手に座るつもりの真佐江であった。


 居住まいを正して、セイロンガーが話し始める。

「昨晩バタバタしてそのまま帰宅してしまい、お話出来ませんでしたが、黒服が気になる話をしていまして」


「ほう?」


「昨日の襲撃ですが、怪人課の指令ではなく、何処からの指示か分からないと言うのです」

 通常、VVEIでは怪人課の水沢雪菜の様な責任者が作戦計画を怪人及び赤服または黒服戦闘員に指示をする。


「では何者かが、直接ゴリラとトカゲの怪人に指令を出したということか」

 

 壽翁は腕を組み、頭の中で情報を整理し話を続けた。

 

「実は、 VVEI内部のリーク情報だが、征服本部担当役員のされこうべ大将が更迭され、本国本社からコマンダー・スネイクが派遣されたそうだ。因みにゴリラとトカゲの2人は大曲博士改造ではなく、同じく本国から先に派遣されているチャールズ博士の改造だ」


「何やら、きな臭い動きですね」


「うむ、昨晩トカゲの怪人が途中で変異したが、本国も変異、変態、擬態する怪人が増えて向こうのヒーローが苦戦している様だ」


「では、日本もこれから……」


「そうなるだろう。セイロンくん、急かせて申し訳ないが、我が社のトレセンになる早で行ってくれないかね?」

 IHAトレーニングセンター、ヒーロー育成を目的にした専門施設である。だが、その場所が何処にあるか一般的には知られていない。


「わかりました。真由美さんの学校が無い日、今週の土曜日にでも伺います」


「お父さん、土曜日、私も一緒に行く!」

 ダイニングで朝食を食べていたはずの真由美がいつの間にか会話を盗み聞いていた。


 真佐江が呆れて嗜める。

「真由美、わがまま言わないの。セイロンさんはお仕事で行くのよ?大体、あなたトレセンで何するの、運動苦手なのに……」

 もっともの話だ。いくら社長令嬢とは言え、仕事場について行きたいとは我儘としか言いようがない。


「何って……その、運動が苦手だから行くんだよ。私、体育の成績だけ悪いから……」

 必死になって、かなり無理めの理由を展開した真由美。本心は何処でも良いからセイロンガーとドライブデートしたい、ただそれだけなのだ。


「……」

 真佐江はいつも聞き分けの良い娘が訳がわからない理由を述べたので言葉が出ない。


 黙って聞いていた壽翁、しかし、彼は娘に超絶甘かった。

「そうかそうか、うんうん。トレセンでセイロンくんとは別行動になるが、それでも良いかな?」


 無理を通した真由美の表情がパッと明るくなる。

「いいよ、それでも!セイロンさん、一緒に行っても良いですか!?」


「そうだな……ご両親が良いと言うのであれば」


 真佐江は呆れながらも壽翁が良いと言うならと諦めた。

「仕方ない子ね……普段こんな我儘言う子じゃないのに……」


「えへへ、ありがとうお父さん、お母さん!私、運動頑張るから!」


 嬉しそうな真由美を見て壽翁、

(テーマパークに行きたいと言われるより、警備上、よっぽど安全と言える……善き哉)

 

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