正論(57)スパイ
五百旗頭道場でヨダレの涎タンクが暴発しかけている丁度その頃、VVEI近くの焼き鳥屋『鳥時』で大曲博士が西口麻里の歓迎会を開いていた。
こんばんは!白い恋人ホワイトマリリンです!
冗談です、西口麻里です。
今日は大曲博士が焼き鳥屋さんに連れて来てくれました。
店員さんが注文を取りに来ました。見た感じお店の大将の奥さんかな?
「はい先生いらっしゃい!飲み物どうしましょ?」
「僕はいつものウィスキーコーク。西口君は?」
ウィスキーコーク、久しぶりに聞いたな。
「私は生ビールで……」
「あとね、とりあえず串の盛り合わせ2人前と、僕はタレ皮20本ね、カリカリで」
20?のみで?コラーゲン取り過ぎじゃね?
「ここ一度来たかったんですよ、でもちょっと高そうで」
「僕は焼き鳥が好きでね、週に3回は来ているよ」
博士、貴方が好きなのは焼き鳥じゃなくて、焼き皮!
「ところで西口君、お酒が入る前に少し真面目な話をする」
博士が真面目な顔で私を直視した。
「はい、何でしょうか」
「今日、元々私は五百旗頭社長の元で働いていたと話したね?これはVVEIも当然分っている事だが」
ん?何かまずい話をしようとしてない?個室でも無い焼き鳥屋で。
「博士、ちょっと待って下さい」
私は自分の服を上から下までチェックした。盗聴器が仕掛けられていないか確かめる為だ。
「大丈夫、西口君のジャケットの襟裏に仕掛けられた盗聴器はさっき店に入る前に外してある」
付いてたんかい……。全くあの会社め!
「でね……」
博士は口元を隠しながら、聞こえるか聞こえないかの小声で話し始めた。
「私は、五百旗頭社長からVVEIに送られたスパイなんだ」
「えっ、でも五百旗頭氏の奥さんの事……」
私も口元を隠して話す。
「あれは……まぁ、恥ずかしながら本当だ。真佐江ちゃん、あの人の天真爛漫な笑顔と戦っている時の破天荒さとのギャップを思い出すと、今だに胸が締め付けられる。勿論、VVEIもその事は知っていて、私が五百旗頭サイドを裏切る原因のひとつと考えている」
「何故そんな危険な橋を……」
「VVEIの日本支社には本国から潤沢な研究資金が流れている。それは五百旗頭社長のIHA(インターナショナルヒロイックエージェンシー)とは比べ物にならない。だから私はVVEIで研究をし、成果を取捨選択、有用な物はIHAに流し、こちらではのらりくらりと大して強くも無い怪人を生み出していたというわけだ」
「だから、変な寿司ネタみたいな怪人ばかり生み出されていたんですね?」
「まぁ、あれらは素体がお馬鹿過ぎてポテンシャルを発揮出来ていないのもある」
イカ、タコ、シャコ、カニ……数々の寿司ネタ怪人が生まれたけど、確かに話してみて馬鹿だなぁとは思ってた。
「でも……どうしてその話を私に?」
「今日の様子を見ていて、君と水沢君はVVEIから心が離れていると思ったのでね。と同時にセイロンガーに近い君達は少し危険だとも感じた。私はこの秋の大型アプデを前にVVEIから離脱し、IHAに戻る。君らも一緒に来たまえ、ヒーローサイドに」
私は食い気味に答えた。
「行きます!」
「しっ!声が大きいよ、君……しかし、ありがとう。これからはそのつもりで働いてくれたまえ」
やった!ホワイトマリリン、ヒーロー側の再就職先、ゲットだぜ!




