正論(54)ビーハイブ!
五百旗頭邸道場正面玄関。
襲撃班一味は一列に整列し、入館した。
丁寧に黒いブーツを脱ぎ揃えて上がる黒服達。
「失礼します!」
それぞれが大きな声で挨拶し、一礼して道場に入る。門で受けた背中パチーンがトラウマになっているようだ。
道場の1番奥に設置された数本の綱登り用の太いロープ。それを片手で苦もなく登るスカイホーネットの姿があった。吹き抜けとなっている2階の天井まで登り切り、そこから前方に回転しながら飛び、どーん!と着地した。
「あぁ、無理だ……こんなの無理だぁあ!」
人間離れした跳躍を見た黒服戦闘員の1人が逃げ出した。逃げ場所を探し、別の出口、母屋に繋がる扉を見つけた彼は転びそうになりながら出て行く。
通路を走る音が聞こえたが……。
ドッ!ドドッ!ドカッ!
鈍い打撃音が聞こえた後、静かになった。
母屋に逃げ込まれたら一大事とセイロンガーが通路を見に行くと、そこには誰の姿も無かった。
暗闇から低い声が聞こえる。
「セイロンさん、掃除は完了しています。ご安心を……」
「お疲れ様です……」
怪人搬出担当が1人減ってしまった。逃げなければ手心を加えてやったものを、愚かな奴だ。
「壽翁さん、ごめんねぇ!セイロンさんにシャドウズのみんなの事バラしちゃった……」
真佐江が手を合わせて謝る。
「バラしてしまったのかい?折角セイロン君がいつ気付くかと楽しみに思っていたんだが……」
壽翁はシャドウズに課題を出していた、それは出入りするセイロンガーに気取られずに五百旗頭邸を警備する事だった。
「いえ、多分余程のことがない限り、彼らの存在には気付かなかったと思います」
セイロンガーは正直に言った。
「ふむ、中々やるだろう?我が社の若手も」
(若手だと?あの気配の消し方、とてもルーキーには思えないが……)
引退したスカイホーネットの実力といい、若手の実力といい、では第一線のヒーローはどこまでの強者だと言うのか……。
「おい!ふざけるんじゃねぇ!俺たちがいるのにのんびり雑談しやがって!なめてるのか?」
完全に無視され、憤る暴れ太鼓。これでも東東京では武闘派で鳴らしている自負がある。
「あぁ、ナメてるな」
ゆっくりと歩きながら、挑発するスカイホーネット。
「なんだとぉ?」
「真佐江ちゃん、久しぶりアレやるか?」
「良いわね!ちょっとセイロンさん、コレお願いしていい?ここ押したら曲が流れるから」
ハニービーは道場の隅に置いているラジカセの再生ボタンを指差した。年代物の赤いダブルラジカセだ。
「……曲?」
いきなり指示され戸惑いながらも、2人が何をしたいのか瞬時に悟ったのは流石セイロンガーと言える。
ハニービーがスカイホーネットの隣に立った。
スカイホーネット「蜂の巣をつついたようなという言葉があるのを知っているか?」
ハニービーがセイロンガーに再生ボタンを押す様に手で合図する。
戸惑いながらラジカセの再生ボタンを押すと……プロレス往年の有名なマスクマンの登場曲『スカイ・ハイ』が流れた。
(カッコいい……)
セイロンガーの年代ではあまり馴染みが無いが、曲自体がまさに登場曲と言う感じで素晴らしい。
スカイホーネット「蜂の巣をつついたようなと言う言葉を知っているか?」
スカイホーネットは何食わぬ様子で同じ台詞をやり直した。
「お、おでは!は、初めてぎいだ!」
ヨダレの素直な返事が丁度良い合いの手になった。
スカイホーネット「そうか……では、教えてやろう」
ハニービー「蜂のように舞い!」
スカイホーネット「蜂のように刺す!」
2人は頭上でパンッと手を叩き、
ユニゾン「2人揃って!ビーーー、ハイブ!」
決めポーズをする2人。
(ビーハイブ、蜂の巣……まんまだが、カッコいい)
セイロンガーは最初の再生タイミングをとちった事を多少悔やみながら思った。




