正論(52)地獄の門が開く
セイロンガーが黒いバン車内のヴィラン一味に告げる。
「誰か1人、俺の車に乗っていけ。人質だ、逃げられたら追うのが面倒だ。この機会にヒーローの恐ろしさをじっくりと味あわせて、2度とヴィラン面出来ない様にしてやる」
暴れ太鼓がドン引きながら言う。
「お前、ヒーローマスクでよくそこまで凶悪な台詞吐けるな……」
セイロンガーは自分の車に戻りながら、後ろのバンからドアが開く音を聞いて振り返った。
暗がりをのそのそと歩くのは紛れもなくコモド怪人ヨダレであった。
「トカゲ、お前が乗るのか?」
「でへへ、おで、セイロンのアニキの車に乗ってみたいなっで……」
ウィーン、シュボボボーッ
「アニキだと?俺はお前の兄貴分でもなければ、お前を舎弟にした覚えも無いが?」
「いいんだ、おでが勝手に思ってるだけだ」
ウィン、シュボボッ
「そうか……まぁ、乗れ……」
のそのそと車に近づいて助手席のドアを開けようとするヨダレ。
「助手席は駄目だ、後ろに乗れ……」
セイロンガーは、真由美が普段乗る助手席にヨダレが乗る事が何となく嫌だった。ヨダレを差別する訳では無い、暴れ太鼓でも後部座席に乗せただろう。
それに、後部座席にはこういう時の為の仕掛けがある。
ヨダレが後部座席に乗ったのを確認し、セイロンガーも車に乗り込む。
『マスター、怪人の乗車を確認しました。拘束しますか』
「あぁ、一応な」
後部座席、ヨダレが座った後ろから格納されていた拘束具が前に倒れてヨダレの身体を両手ごと拘束した。ジェットコースターの安全バーの拘束バージョンだ。
「いでで、アニキすげぇなぁ、この車」
ウィーン、シュボッシュボッ、ビーーッ
ヨダレの吸引パイプからアラーム音が鳴った。
「トカゲ、何の音だ?」
「ずまねぇ、アニキ。背中のタンクが一杯になっちまっだジュル」
ウィーン、ウィーン……ビーーッ
「おい!もう喋るな!返事もするな!」
「……ジュル」
ププッ
セイロンガーはクラクションで合図し、Uターンして五百旗頭邸にバンを先頭した。後部座席が気になり、少し焦るセイロンガー。
すぐに五百旗頭邸に着く。黒いバンから暴れ太鼓と黒服戦闘員達が降りて来た。戦闘員の表情は見えないが、明らかに元気が無く、トボトボと歩いている。
「ゴリラ、トカゲのヨダレタンクの替えはあるか?一杯になったらしいから替えてやれ」
「ったく、締まらねぇな、こっち来い」
バンにヨダレを連れて行く暴れ太鼓。
「あの、セイロンガーさん。俺たち逃げちゃ駄目っすか?」
戦闘員が相談して来る。厳しいで有名な大学空手部の夏合宿前の一年生の気分で、戦闘意欲は限りなくゼロだ。
セイロンガーが2人の怪人に聞こえない様に小声で、
「駄目だ、お前らはここの家主にボコられたあの2人をVVEIに連れ帰る仕事がある。お前らは俺が適当に痛めつけるからやられたフリでもしとけ」
「あぁ、そういう事なら、任せて下さい!」
ガッツポーズの黒服戦闘員。
ピンポーン
チャイムに返答するまでもなく、ガラガラガラと地獄の門が開く。
「はいはい、あらあら、セイロンさん。今日は良く会うわね、なんてねー」
そこには既にハニービーと化した真佐江の姿があった。




