正論⑸ 法外な画数
真由美です。
今、マンションのロビーでセイロンさんを待ってます。
着替えるって、もしかしたらヒーローマスクを脱いだセイロンさんが見られるのかな?
ちょっと楽しみだったり……。
奥のエレベーターが開きました。
「あっ、セイロンさん……」
「待たせたな、娘」
現れたセイロンさんは、グレーのツイードのスーツを素敵に着こなしていました。
胸ポケットには黒い、柄の入ったチーフを刺して、同じ柄のネクタイ、白いシャツの袖には素敵なカフスが光ってます。
いえいえ、そこじゃなくて!
「あの、セイロンさん……ヒーロースーツの上にさらにスーツなんですね?」
「おかしいだろうか?」
「いえ……あの、素敵だと思います」
「そうか、では行こうか。道案内を頼む」
「はい、こっちです」
セイロンさん、ほのかにコロンの良い香りがする。
お洒落なんだなぁ……。
「あ、あの!私、名前言ってませんでした」
「そうだな、何せ通りがかっただけの縁だったからな」
「私は五百旗頭真由美と、言います……」
「いおきべ……五百に旗頭と書く……珍しい苗字だな」
「はい……、小中学生の頃はあまり好きではなかったんです。でも最近は印象に残る苗字なのと、初対面の人と話すきっかけになるので気に入ってます」
「そうだな、苗字と言うのは先祖が紡いできた物語の題名の様なものだ。五百旗頭の様に歴史があるものは尚更だろう」
「はい、そう言ってもらえて嬉しいです。ありがとうございます!」
セイロンさん、私が文芸部だから物語に例えてくれたのかな?考え過ぎですよね……。
「あ、着きました」
「驚くほど近所だな……」
確かに、マンションを出て角を2回曲がっただけで着いちゃいました……。
「なるほど、豪邸だな」
門を開けるとお父さんが待っていました。
「やはり、君がセイロン君。この度は娘を2回も助けて頂きありがとう。私は父の五百旗頭壽翁です」
「初めまして、この街でヒーローをやっています、セイロンガーと申します。こちら、つまらない物ですが」
「銘菓ひよこ……これは、かえって気を使わせて申し訳ない。立ち話も何ですから、拙宅へどうぞ」
セイロンさんは父の後を母屋へと歩いていきます。
「五百旗頭さん、不躾で申し訳ないのですが、としおと言う名前の漢字はどう書くのでしょうか」
「あぁ、気になりますか。としは寿の旧字、おはおきなと書きます」
「やはり……」
「本当に自分の名前ながら、画数の多さには苦労しました」
「64画……」
「お見事……」
何だかこの2人、気が合いそうで良かった……。