正論(49)ヴィラン組み手③
「さて、それではセイロン君こちらへ」
「はい」
セイロンガーはスーツ、シャツを脱ぎ、綺麗に畳んで前に進み出て、スカイホーネットと相対する。
耳の横にあるボタンを押しウィーンカシャッと口が開く。
「ぷふぅーっ」
深呼吸し、息を整えるセイロンガー。
ハニービーこと五百旗頭真佐江が両者の間に立つ。
「私が合図を勤めます。壽翁さん、頑張って。セイロンさん、壽翁さんのヴィランは強いですよ、気をつけて下さいね」
両者の準備が出来たと見るや、片手を上げた。
「それでは……始め!」
合図と共にステップを踏み歩きながらスカイホーネットが口火を切る。
「くっくっくっ……、最近この辺りに羽虫の様に湧いている口喧嘩の強いヒーローとはお前か?あーーん?」
「出たな、スカイホーネット。問答無用だ、口喧嘩だけかどうか自ら試して見るが良い」
テンプレ台詞で応じるセイロンガー。
「まだだ、まだまだ、お前セイロンガーと言ったか?なぁーにが正論だ笑わせやがる!やれスーツが汚れたから弁償しろと借金背負わせたり、やってる事はヤー公と変わらねぇじゃねぇか!それにだ、最近は何だ?女子高生と毎日ドライブデート三昧らしいな?おいおい、それの何処がヒーローだ!どの辺が正論なんだ!」
(くっ……流石は壽翁さん。自分で依頼した娘の護衛任務までディスってくるとは……。しかし真佐江さん程の直球の悪口では無い)
「もう良い、スカイホーネット。正論は口喧嘩の道具ではない」
「はぁ?じゃあ何だってんだ!」
セイロンガーは拳でドンドンと胸を叩いた。
「正論は……『信念』だ!」
次の瞬間、2人は走りながらお互い飛び蹴りを放つ。
同じ格好で交差し、立ち位置を入れ替えて着地する両者、一瞬早く立ち上がり走り込み様、着地したスカイホーネットの後頭部に蹴りを入れるセイロンガー。
それを前に倒れながら避け、更に軸足を取りに行くスカイホーネット、しかし、セイロンガーは蹴りの反動から軸足を回転させ飛び上がり、スカイホーネットの背中に乗った!
一瞬躊躇はあったが、セイロンガーは後ろからマウントを取る形でスカイホーネットの後頭部から側頭部にかけてパンチを叩き込む。ジークンドーで鍛えた打撃は、ヒーロースーツのパワーが無かったとしても強力で、手でガードする隙間をぬって的確に打撃を与えていく。
ミシッ、ミシッ、ミシッ……スカイホーネットのマスクが今にも割れそうな音を立てて軋む。
「ハニービー!チェックヒム!ハリアップ!」
尚も打撃を加えながら、スカイホーネットの意識があるか確認する様、要求する。
(なぜ英語……私、日本人よセイロンさん?)
ハニービーはスカイホーネットの片手を持ち上げる。しかし、その手は落ちる事なく、親指でサムアップし、まだ意識がある事を示した!
「ぬぉぉぉ……!ふぬらぁあ!」
スカイホーネットは足を曲げ、踏ん張りながら渾身の力で立ち上がり、マウントを無理やり抜けた。
ヒーロー同士の決着は早い、何故なら互いの攻撃力が高いからだ。次の技で決まる、ハニービーは予見した。
スカイホーネットは決め技、高高度ニードロップを放つべく、天井に向けて飛び上がった。しかし、先程のダメージから若干上昇が足りない。そこへほぼ同時に飛び上がったセイロンガーが追い付き、腰に抱きついた!
ルー・テーズ式、腰で投げるバックドロップ。
空中からの板張りの床への脳天逆落としが決まった。
いかにスカイホーネットが歴戦のヒーローでも立ち上がる事が出来ない。
……パリンッ
スカイホーネットのヒーローマスクがこの戦いの影響で割れてしまった。
「参った……」
「勝者、セイロンガー!」
ハニービーがセイロンガーの手を掲げた。
「大丈夫ですか?壽翁さん」
セイロンガーがスカイホーネットを心配そうに覗き込む。
「なんの、しかしヒーローマスクを割られたのは初めてだよ……」
「久しぶりに思い切り戦えました。有難う御座います」
セイロンガーは丁寧に一礼した。
「ふむ、善き哉」
倒れたまま、スカイホーネットは答えた。
「あらやだ、もうこんな時間。セイロンさん、晩御飯食べて行くでしょう?」
「はい、それでは、お言葉に甘えて」
「今日はねぇ、2日目のカレーよ!カレーは2日目が美味しいのよ!」
真佐江は嬉しそうに言った。
(そうだった!鬼島から聞いていたのにお昼にライスカレーざるセットを食べてしまった……)




