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ど正論ヒーロー セイロンガー  作者: 月極典


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正論(48)ヴィラン組み手②


 五百旗頭邸道場。

愚図る真由美を説得し、自分の部屋に行かせた母真佐江。廊下まで見送り、ちゃんと母屋に入った事を確認する念の入れ様だ。


「何もそこまでしなくても……」


「駄目なんですの、セイロンさん。子供には絶対見せられない戦いですから、うふふ」


「そうだな、確かに私も真由美には見せたくない」


(そこまで壮絶な戦いなのか、ヴィラン組み手とは……)


 静まり返る道場、初夏にも関わらず、ピーンと張る空気。

普段仲睦まじい夫婦、スカイホーネットとハニービーは互いに向かい合い、一礼し、構える。


「セイロン君、合図頼めるかね?」


「わかりました……。それでは、始めい!」

 

 ハニービーが構えを解き、両手を広げて挑発する。

「ひゃーはっはっはっ!おいスカイホーネットォ!加齢臭を撒き散らしやがって、性懲りも無く我が前に姿を現したな!」

(加齢臭……。真佐江さん完全に人が変わっている)

 

「……おのれ、ハニービー!貴様の悪事はここまでだ!このスカイホーネットが止めてみせる!」

(成る程、ヒーローサイドはテンプレ台詞なのか)


 ハニービーがゆっくりと歩きながら答える。

「ほーう、ヒーローを引退したお前如きが、現役バリバリのこのハニービー様に敵うわけがなかろうが、この老ぼれめ!家に帰って庭いじりでもしていやがれ!」

(微妙にリアルな悪口が入っているが、大丈夫なのか?)


「お前の減らず口を聞くのはもう、うんざりだ。かかって来い」

(だろうな……、こっちも聞いていられない)


「うるせえ、まだ言いたい事はあるんだスカイホーネット!毎日毎日仕事だとか言って遅く帰って来やがって!銀座のクラブで飲んで帰って来てるのを知ってるんだ、こっちは!」

(これは……夫婦喧嘩ではないのか?)


「いや、真佐江ちゃん、違うんだ、アレは政府関係者との付き合いで仕方なくだな……」

 スカイホーネットが言い訳しながら、ハニービーに近寄る。


 瞬間。

「ちょぉぉ!」

 怪鳥音と共に飛び上がり様、ハニービーが左右のハイキックをドッ!ドッ!とスカイホーネットの頭に放つ。不意打ちを食らいよろけるスカイホーネット。すかさず、金的蹴りを叩き込むハニービー。何とかそれを手でガードし、スカイホーネットは距離を取ったが、受けたハイキックで頭が揺れている。


「ほぅわちゃー!」

 その距離を前宙返りで詰めながら手刀でモンゴリアンチョップを叩き込むハニービー。続け様に片足を掴み諸共に回転するドラゴンスクリュー。

(飛び技を得意とするスカイホーネットの足を狙う、効果的な攻撃だ)

 

 スカイホーネットは床に転がり仰向けになる。そこにハニービーの助走を付けた容赦無い金的蹴りが飛ぶ!しかし、これを咄嗟に足でガードするスカイホーネット。

「嗚呼ぁ!」

ガードした足で強かに脛を強打されたハニービー。堪らず足を押さえて蹲る。その顔を思い切り蹴り飛ばすスカイホーネット。

(妻の顔面にサッカーボールキック……)


「行くぞーっ!」

 ハニービーの両足を掴みクロスし、足4の字の体制に入る。必死に抵抗するハニービーだが、遂にスカイホーネットの足4の字が極まる。

 

「嗚呼ぁ!痛い痛い!壽翁さん、痛い!」

 悲鳴を上げるハニービーだが、スカイホーネットは離さない。

「その手は食わないよ、真佐江ちゃん!ギブアップ?」


「……ギブアップ……」


「……」

 セイロンガーは呆気に取られた。これが、夫婦の戦いだろうか?片や夫の金的を本気で蹴り上げ、片や妻の足を折れよとばかりに極める……。


「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」

 2人とも勝負がついても立ち上がれない。それだけ本気だったと言う事だ。


「はぁ、はぁ、真佐江ちゃんの金的蹴り、相変わらずだね」


「ふぅ、壽翁さんの4の字も効きましたよ。足がポッキリいくかと思いましたわ」


「あの……真由美さんに見せられないって意味、理解しました……」


「どうだったね?ヴィラン組み手」


「壮絶でした。特に真佐江さんの攻撃はいつもの真佐江さんからは想像もつきませんでした」

(口撃もだが……)


「あらやだ、セイロンさんが居るのに私ったら、何かはしたない事言わなかったかしら?」

 言いながらハニービーはヒーローマスクを取った。中身は間違いなく五百旗頭真佐江その人だった。


「いえ、そういう組み手でしょうから……」

(さっきの覚えてないのか?真佐江さん……。壽翁さんは絶対覚えてると思うが……)


「では、セイロン君。どちらとやるかね?」


「壽翁さんがヴィランでお願いします!」

 セイロンガーは、迷わず即答するのだった。


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