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ど正論ヒーロー セイロンガー  作者: 月極典


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正論(47)ヴィラン組み手


「時は203X年、世界は第三次世界大戦の危機にあった。そこに地球外生命体からの移民申請が各国に届く」


 セイロンガーと真由美はAIエミリーに小説を読んでもらおうと、順番にプロットを言い合う遊びをしている。


 セイロンガーの最初の設定を真由美はスマホにメモる。


「次、私ですね! えーっと……その異星人の見た目は可愛らしい猫ちゃんだった。各国首都の上空に猫型宇宙船が現れる。中にはそれぞれ1億匹の猫ちゃん。はい、次」


「猫ちゃん……。各国の対応はバラバラだった、友好使節団を送る国もあれば、問答無用で攻撃を仕掛ける国もあった」


 真由美が続ける。

「攻撃を仕掛けた野蛮な国は猫ちゃん達の圧倒的な武力に驚く。攻撃が全て宇宙船のモフモフで無効化されるのだった」


「モフモフ……」


 セイロンガーがハードボイルドな設定を出しても、真由美が絶妙に『カワイイ』を差し込んで返してくる。自分の中に『カワイイ』ネタを探すが、どの引き出しを開けても入っていない。

 

 しかし、彼はそのやり取りの無邪気さに今日の疲れが癒やされるのを感じていた。自分に妹や姪っ子がいたならこんな感じだろうか。


「そろそろ、家に着くから続きは明日だな」

 真由美はおっとりしているが、中々頭の回転が早い。


「はい、めちゃくちゃ楽しいです! 明日も楽しみです。エミリー、また明日ね!」

 そしてエミリーに対しての対応もAIと言うより友人と接する様に分け隔てが無い。五百旗頭家の教育の賜物だろうか。


『はい、真由美さん。また明日お会いしましょう』

 セイロンガーがドアを開けてやり、真由美は小走りで五百旗頭邸に入っていく。


『マスターのハードな設定が壊される感じが面白かったですね』


「ふっ、からかってるな? エミリー」


 真由美が戻って来た。ウィンドウを開けると

「今、道場で珍しくお父さんとお母さんが組み手してるみたいです。見ていきませんか?」


「それは興味深い、拝見しても良いのかな?」


「セイロンさんなら多分大丈夫です!」


 道場に近づくと中から罵声が聞こえて来た。


「はーはっはっ! スカイホーネット、いや五百旗頭壽翁、今日こそお前の最期だ!」

 女性の声でスカイホーネットを煽っている。

セイロンガーは走って道場へ向かう。正面入り口で靴を脱ぎ、一礼して道場に入る。


 中にはヒーロー姿のスカイホーネットと、初めて見る女性のヒーローが居た。カラーリングが壽翁さんのものと似ている、と言う事は鬼島が言っていた真佐江さんのヒーロー姿か。


「あらやだ、セイロンさん」

 ハニービーこと五百旗頭真佐江が素に戻った。


「セイロン君か、今、丁度真佐江ちゃんとヴィラン組み手をしていた所だ」


「成る程、で、ヴィラン組み手とは?」

 言いながらセイロンガーは正座した。


「片方がヴィラン役になって卑怯の限りを尽くして戦うハードな組み手だ。凶器、目潰し、金的、唾吐き、つねくり何でもありだ」

 ルール無用の実戦を想定した組み手である。


「つねくり……確かにハードですね」

 セイロンガーは過去、組み伏せた怪人に内腿の柔らかい部分をぎゅう〜っとつねくられた事がある。あまりの痛さにその怪人を怒りに任せて泣くまでボコボコにしてしまった。


「うむ、地味に痛いからな。ずっと痛い。しかも怪人の力でされるから堪らん」

 スカイホーネットはこめかみを両拳でぐりぐりする『梅干し』も言おうとしたが、あまり実戦向きではないので止めた。

 

「後学の為に少し見させてもらっても良いですか?」

 今まで個人で活動してきたセイロンガーは他のヒーローの戦い方に興味があった。


「構わんよ、後で君も入りなさい」


「でも、真由美、貴女は部屋で宿題やりなさい」

 母、真佐江が部屋に行く様促す。


「え〜、私も見たいなぁ」

 珍しく、真由美が我儘を言った。誰よりもセイロンガーの勇姿が見たい真由美であった。


「駄目よ、子供には見せられない戦いだから!」

 

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