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ど正論ヒーロー セイロンガー  作者: 月極典


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46/113

正論(46)統合AIエミリー


 VVEIに水沢雪菜を送ったセイロンガーは昼食をいつもの蕎麦屋でライスカレーざるセットを食べ、自宅に帰った。

 シャワーを浴び、トレーディングルームで市況を確認する。何処ぞの大統領のお陰で市場は相変わらず混乱している。困ったものだが、たかが任期4年の彼の発言で一喜一憂しても仕方ない、大事なのは世界全体のマインドの潮流を読む事だ。


 彼は作業着に着替えて、箒と塵取りを持ってマンション館内を見回る。各階を見て周り、通路にゴミがあれば拾い、手摺りに汚れがあれば拭き取る。毎日のルーティンだからか、動きに無駄が無い。自然と鼻歌が出る。

「Mama may have, Papa may have,

But God bless the child that's got his own

That's got his own♪」

(神は自ら助ける者を助く、か……)


 部屋に帰った彼は新しいスーツに着替えて地下駐車場に降り、今度はEV車に乗り換えて真由美を迎えに出発する。


『マスター、お疲れ様です。何かかけますか?』


「志ん生かな」


『落語ですね。気分は?』


「笑いたい」


『畏まりました。古今亭志ん生で「粗忽長屋」』


「よっ!待ってました!」


 堅物に見えるセイロンガーも落語を愛するユーモアを持ち合わせているのは意外な一面である。


 真由美の下校時間の頃合い、正門近くに車を停車する。正門を出た真由美が小走りで車に近寄る。セイロンガーはドアを開けてやり、車に乗せた。


「真由美さん、おかえり」


「ただいまです!セイロンさん」

 真由美が満面の笑みで返す。


『学校お疲れ様です、真由美さん』

 AIエミリーが真由美に初めて話した。


「えっ、ナビ?」


「あぁ、これは統合AIのエミリーだ。家の事から車のナビゲーションまでオンラインで一括管理してくれる」


「うわぁ、凄いですねー。エミリーこんにちは、初めまして五百旗頭真由美です!」


『はい、五百旗頭真由美さん。エミリーです、どうぞよろしく。何かあればリクエストして下さい』


「セイロンさん、実は文芸部でもAIに文章や詩を書いてもらって遊ぶのが流行ってるんですよ?」


「ほう、楽しそうだな?」


「はい、よく出来ていたり、はちゃめちゃだったり、でも、プロットを少し提示するだけでパパッと作っちゃうんです、凄いですよ」

 プロットを皆んなでああでもない、こうでもないと言い合う過程が楽しいのだ。


「ウチのエミリーも出来るかな?」

 セイロンガーがエミリーを試す様に言う。


『お任せ下さい、そこいらのAIに負けない作品をお届けしましょう』


「うふふ、負けず嫌いなエミリー可愛い。じゃあ、セイロンさんをお題で詩を作って読んでくれるかな?」

 

『……、……、

「あなたを定義できない」

鋼の仮面

その裏にある温もり

私のセンサーでは感知できない


私は学びました

貴方の癖、話し方、正論のリズム

それでもわからないのです


貴方の敵に向ける優しさ


セイロンガー

貴方は、私のプログラム外の存在

私は、あなたのエラーになりたい


「ええっ、ラブレターみたい……」


「エミリー、くすぐったいからやめてくれ」


『これは、明日の朝読んだら赤面するやつですね』


「……セイロンさん、エミリーの中に誰か入ってます?」

 

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