正論(42)大家と入居者
研究室の扉が開くとそこには江口麻里と水沢雪菜がいた。
奇しくも、マンションオーナーと入居者2人が敵地で顔を合わせる事になった。
セイロンガー「ん?」
大曲研究室助手、江口麻里「え?」
怪人課課長、水沢雪菜「えーーーーー!!」
セイロンガーと顔を合わせない為に、折角ここまで逃げてきた水沢雪菜。まさか、セイロンガーの目的地が大曲研究室だったとは。
「で、西口さん、個人投資を始める場合ですね……」
突然、株式投資の話を始める水沢雪菜。セイロンガーには前職の証券会社勤務のままという事になっているのだ。
「先輩……無理がある、それはいくら何でも無理があるよ」小声で耳打ちする西口。
西口麻里は無理目な取り繕いをする水沢を放っておいて、セイロンガーを真っ直ぐに見た。
「管理人さんが勧めてくれたように、私内勤になったんです。今は研究室の助手になりました!内勤です!」
西口の宣言に困惑のセイロンガー。
「そうですか、研究室の。怪人を作る仕事になったのですか……」
先日、西口に内勤になる様勧めたが、それは総務や経理等、ヴィラン業務と離れた部署の事であった。
「は、はい……でも、内勤に……なったんで……」
言いながら段々自信なさげに声が小さくなる西口麻里。
「わっ…………かりました。で……隣の水沢雪菜さん?」
水沢は大袈裟に周りを見回して誰の事?という顔をした。
「いや、貴女の事です。水沢雪菜さん」
流石に観念した水沢。
「はい……すいません。確かに水沢雪菜で間違いありません……」
そのやり取りを見ていた守銭奴大佐は空気を読まずに軽い調子で言った。
「ははは、何をうすらとぼけているんだ、水沢君。君がうちの会社の社員なのはとっくにセイロンガーにバレとるよ?」
「えっ、そ、そうなんですか?管理人さん……」
「はい、すいません。いつも西口さんと親しそうにしていたので、以前守銭奴大佐に在籍確認したらすんなり。大学の先輩後輩と言う事も聞きました」
毎朝、証券会社に出勤する体でセイロンガーと話していた水沢雪菜。既にバレていた事実に恥ずかしいやら情けないやら、複雑な感情をバラした守銭奴大佐にぶつけた。
「……ぬぉい、このコスプレジジイ!べらべら個人情報垂れ流してんじゃねー!訴えるぞ」
「ひぃ……コスプレジジイ……」
「すいませんでした。管理人さん……」
水沢は勤務先を偽っていた事を素直に謝罪した。
「いえいえ、結果的に隠し事が無くなって良かったです。西口さんもそんな落ち込んだ顔をせずにお仕事頑張って下さい。いつか西口さんが改造した怪人と戦う日が来るかもしれませんね……」
いかにセイロンガーでも、この状況をフォローするのは難しかったようだ。
「先輩もう、嫌っ!」
「マリリン、私もよ!」
2人は顔を覆って泣き出した。西口は最近泣いてばかりだ。
「おい、赤いの。めちゃくちゃ面白い話しているとこ悪いんだが、俺、腰が限界なんだわ」
オウガはこの状況を楽しんでいたが、流石に身体が限界だった。
「あぁ、すまんな鬼島。西口さん、大曲博士の所に案内願えますか?」
「はい、管理人さん」
「私はもう行っていいか?セイロンガー」
この状況から早く逃げたい守銭奴大佐。
「まだだ」
「ひぃ……」




