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ど正論ヒーロー セイロンガー  作者: 月極典


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正論(38)呉越同舟


 セイロンガーだ。

 

 イカが郷里に帰りイカ漁師になると言う。確かにあの感じではヴィランのスカウト業務は頭打ちだっただろうから、良い判断だったのかも知れない。今日はスーパーでイカ刺しでも買って帰るか……。


 ん、五百旗頭邸の前にいるのは壽翁さんと黒いマスクの男、確か……鬼島津だったか?

壽翁さんが肩を貸している様だが……。


 ボボボボ……ボボボボ……ヴォン……ボボボボ……ボボボボ……ヴォンヴォン……ボボボボ……


「壽翁さん、どうされたんですか?」

 五百旗頭邸の前で車を停め、私は壽翁さんに尋ねた。黒マスクは腰を屈めてかなりのダメージがある様だ。きっとスカイホーネットの壽翁さんにやられたのだろう。引退したはずなのに恐るべき実力だ。


「おぉ、セイロン君良い所に。実はうちの道場で彼と稽古していてなぁ、元々痛めていた腰をやってしまって。車で送ると言ってるんだが、歩いて帰ると聞かんのだよ」


「稽古じゃねぇ!真剣勝負で負けたんだ俺ぁ!」


「鬼島津、乗れ。VVEIに送って行こう」


「鬼島だ!誰が島津義弘だ、いや、島津義弘は好きな武将だけどよぉ」


「うむ!私も好きだぞ、島津義弘。島津の退き口、善き哉」


「さっきから善き哉善き哉うるせーんだよ、おっさん!」


「鬼島か、負けた癖に荒ぶるな。見た所歩ける様な状態ではあるまい。俺も忙しい、さっさと乗ってくれ」


「ちっ!全く情けねぇったらねぇぜ……」


「少し狭いが、我慢しろよ」


「ア、イタァ〜ッイタタタァーッ!ちょと待て、低すぎる、シートが低すぎる!ゆっくりだ、ゆっくり、アー!」


「うるさい奴だ……。それでは壽翁さん、失礼します」


「悪いね、セイロン君。オウガ君、腰が治ったらまた稽古をつけてあげよう」


「うるせー!覚えてろよ!次は殺すからな!」


「お前、その悪役の定型文、言ってて恥ずかしくないか?」


 ボボボボ……ボボボボ……ヴォンヴォン……ヴォーーン……ヴォーーン……


 私は車をVVEIへ走らせた。助手席には敵である鬼島、呉越同舟にも程と言うものがある。


「おい、このスーパーカーいくらするんだ?」

 しばらくの沈黙から、鬼島が聞いて来た。内装を物珍しそうに眺めている。


「カスタム込みで6000万くらいだ」


「すげぇな、俺も昔は外車を乗り回してたが、こんな車は乗った事がねぇ。まだ若いのにマンション一棟持って良い車乗り回してヒーローやって最高だな?セイロンガー」


「最高か……。そう見えるか?」


「まるでそうじゃねぇって言い方だな」


「俺には持論がある。自分は幸せだとか、最高だとか、金持ちだとか、自己肯定した瞬間が転落のスタートだってな。俺がこの姿に改造されたのもそんな頃だった」


「へぇ、若いのに難しい事考えてんだな。俺ぁ戦いしかねぇ、強けりゃ金が稼げるし、いい生活も出来る。ただ、それだけだ……」


「そうか、確かにアンタは強い。そういう生き方もあるだろうな」


「あぁ……」


「着いたぞ、今大曲博士を呼んでくる。少し待っていろ」


「はぁ?敵の本拠地だぞ?単身乗り込むんかよ!」


「ふっ、仕事で何度も来ている。元の取引先だからな」


 私はVVEI東京本部へ乗り込んだ。

サイレンが鳴り響き、館内放送が流れる。


「セイロンガー急襲!セイロンガー急襲!怪人及び戦闘員は至急1階ロビーで迎撃せよ!」


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