正論(36)帰郷
真由美です。
お父さんが今日から車で送迎だって言っていたから、セイロンさんがどんな車で来てくれるのかと楽しみにしてました。そしたら……何?この凄い車……!エンジンの音がお腹に響いて……あの、ちょっと恥ずかしいんですけど、今朝の朝食がギュルギュル言ってます……。
「あの、セイロンさん。この車、凄いですね」
黒い内装も凄いので、セイロンさんの姿とマッチして何だかヒーロー映画を見ているみたいです。
「あぁ、たまに乗ってエンジン回さないといけないからコレで来たが、ちょっと失敗だったな」
「え?何でですか?」
「とにかく煩いし、目立つだろう?」
「うーん、確かに後ろから小学生が走って追いかけて来てますし、何人かに動画か写真も撮られてますね」
信号で止まると、可愛らしい小学生が追いかけ来るのがバックミラーに見えます。
「困ったな、学校の正門まで送りたいのにこれでは目立って真由美さんに迷惑かけてしまう……」
「あ、そんな事は気にしないでください。うちの学校、結構高級車で送迎多いので、多分大丈夫です……多分」
とは言え、信号待ちの度にスマホで撮影されてちょっとだけ恥ずかしいかもしれない……。
「明日はもっと地味な静かな車で来よう」
「でも……この凄い車、たまには乗りたいです!えっと、休みの日にドライブとか……」
「ふむ……そうだな。真由美さんが買い物にでも行きたい時にはこの車で行こうか。やはり、速い車は高速道路を走るのが一番だからな」
「やったぁ、嬉しいです!」
とか何とか言ってる内に学校に着いちゃいました。
あれ?正門の横でスマホでこの車を撮影してる人……イカルガさん?初めてセイロンさんと出会った、思い出の怪人さんだ。
「セイロンさん、あれ」
「あぁ、あれはイカ……だな。今、ドアを開けるからイカと私が話している間に学校に入りなさい」
左ハンドルなのでセイロンさんは車から降りてドアを開けてくれます。この車、ドアが上に上がるんですよ、ガルウイングとか言ったっけ?
「あっ!セイロンガー……さん」
イカルガさんが気付きました……でも、さん付けなんてしてたっけ?
「イカ、久しぶりだな。その後の活動はどうだ?」
「自分、VVEI辞めたんです。なんか、怪人向いてないなって……で、お世話になったセイロンガーさんに挨拶に来たら凄いスーパーカーが来たんで動画録っちゃいました。さーせん……」
「世話した覚えはないが、そうか辞めたか。イカのままの姿でこれからどうするつもりだ?」
「実は実家が青森でイカ漁やってまして、親父がイカのままでも良いから帰って来いっていうもんですから……」
「そうか、イカがイカを釣って生業にするのも悪くない」
「洒落にもなりませんけど……まぁ、頑張ってみます。あ、これ自分の連絡先です、八戸なんで近くに来る事あれば連絡下さい。美味いイカ料理ご馳走しますんで」
「イカルガさん!漁師頑張って下さいね!」
思わず、声をかけちゃった。なんだかんだ、悪い人じゃ無さそうなんだよな……。
「お嬢さん、色々ごめんね。後、自分イカルガじゃなくてイカンガーだから」
いけない!私ずっと間違えてた!
「ふっ、違うな、お前はもう斉藤。斉藤誠だろう?」
「はい、そうですね、ありがとうございます!」
「餞別だ、取っておけ。またな、斉藤」
斉藤さんのズボンのポケットに何やら突っ込んで、そのまま車に乗り込むセイロンさん。
ボボボボ……ボボボボ……ヴォン……ボボボボ……ボボボボ……ヴォンヴォン……ヴォーーン……ヴォーーン……
セイロンさんはマフラーから火をふかしながら、去って行きました。それを礼儀正しくお辞儀して斉藤さんは見送りました。
数十人のギャラリーと共に……。




