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ど正論ヒーロー セイロンガー  作者: 月極典


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35/114

正論(35)連敗


 五百旗頭壽翁は最後にマスクを頭に取り付けた。

ロックをかけるとプシューッという音と共に弛みのあるスーツが五百旗頭の身体にフィットしていく。


「お待たせしてすまんね」

その場で立ち上がり、トントンとステップを踏む。


「ふーん、さっきと違って身体が軽そうじゃねぇか?五百旗頭」

ブラック・オウガが構える。

 

「違うな、今の私は五百旗頭ではない」


「あ?」


「私は空翔けるヒーロー、スカイホーネットだ!」


「ちっ!しゃらくせぇ!」

 オウガがあっという間にスカイホーネットとの間を詰め、強烈なパンチの連打を繰り出す。


 ドカッ!ドカッ!ドカッ!ドゴッ!……


 それを全て手で受け止めるスカイホーネット。その攻防は10数秒続いた。


 オウガは隙をついてタックルに移行する。

が、既にそこにはスカイホーネットの姿はなかった。


 スカイホーネットはタックルに入られる瞬間、伸身で空中に跳躍し、その高さは天井にまで達していた。

眼下にあらわになったオウガの背中が見える。


 セイロンガーからオウガの弱点を聞いているスカイホーネット。天井を蹴り、その反動を利用してオウガの腰目掛けて膝を落とす。


 殺気を感じたオウガ、間一髪で回転しその膝を避けた、かに見えた。


 しかし、スカイホーネットは膝を落としながら更に一回転し、避けたオウガに向けて踵落としを放った。


 ド――ン!という着地音と共にスカイホーネットの踵はオウガの腰を十分に捉えていた。


「あぁぁぁあがぁ」

 セイロンガー戦に続き、再び腰を痛打されたオウガ。今回は転げ回る事も出来ない程のダメージを負った。


 立ち上がるスカイホーネットはうつ伏せで苦しむオウガに近づいて己が足で両脚をロックする。

更に、オウガの両手を掴み、後ろに回転する。


 ロメロスペシャル。

地下格闘家が決められる筈のない華麗なプロレスの固め技だ。


「うぉぉぉ」


「ギブアップかね?」


「ふざけるなぁあ、これは試合じゃねぇ……こ、殺せ……」


「こんなんじゃ死なんよ、腰がぶっ壊れるだけだ、再起不能程度だよ」


 スカイホーネットは技を解いた。ゴロっと力無く横たわるオウガ。恐らく立ち上がる事も出来ないだろう。


「今、鎮痛剤を持ってくるからちょっと待っていなさい、それでは歩いて帰れないだろう」


「くそっ……」


 そこにタイミング良く、五百旗頭真佐江が現れた。

「あらあらあら、真剣勝負終わったんですか?まーた、あなたお客さんをコテンパンにして……はい、薬箱とお水」


「ありがとう、真佐江ちゃん」


 うつ伏せのままのオウガ、その会話を聞いて、殺すと息巻いていた事が急に馬鹿らしくなった。

 

「ちっ全く、やってらんねぇ……」


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