正論(29)赤と黒の激突
鬼島三郎だ。
何の因果か、こんな事になっちまった。
まぁ、3食昼寝付き、昼寝は勝手に寝てたんだが……刑務所をほっぽり出されて自棄になってた身だ、暴れるだけ暴れてやるさ。
前から来る、あの赤いのがセイロンガーってやつか。
仕立ての良いスーツ着てるじゃねぇか。俺も殺人で捕まる前は高級品を身に付けてたっけ……。わかるぜその気持ち、良い物を身に付けるのは実にいい気分だ。
「黒いの、何者だ」
「オレぁ、鬼島だ。強ぇヤツが居るって聞いてよ」
「そうか、では話は無用だな。真由美さん、離れていなさい」
あ?全然理屈っぽくねぇじゃねぇか!ま、話するつもりも無いんだがよ。
予告なく闘いは始まった。
「そうりゃ!」
オウガは咥えタバコのまま、右ストレートから左のボディブローを繰り出したかと思うと、セイロンガーの足元にタックルを仕掛けた。
セイロンガーはタックルに来たオウガの背に手を付いて、前方に一回転して避けた。
更に着地するセイロンガーを足払いするオウガ。
セイロンガーはそれを難なく躱し、低い位置にあるオウガの頭部に蹴りを入れた。
蹴りをブロックしたオウガは強力な握力でセイロンガーの足を掴み、膝十字固めに持ち込もうとする。
間一髪で無防備なオウガの後頭部に蹴りを入れ、脱出を図るセイロンガーだが、柔術の経験値に一日の長があるオウガはここが勝負所と倒れ込んだセイロンガーの足を離さず極めにかかる。
試合では無い。
膝が極まってもタップはないのだ。このままではセイロンガーの膝の靱帯は伸びきってしまうだろう!
しかし、ここまで数秒のやり取りの中でセイロンガーはちょっとした違和感を感じていた。技術はかなりあるが若干スピードに欠ける。そして、動く度に呻き声を発している。
「お、おい鬼島……」
「あぁ?何だ……」
「お前、かなりのおじさんだろ?」
「あぁ?加齢臭か?だが、そのおじさんに膝極められる寸前じゃねぇか」
「そうか、やはりな。では、ここだ!」
セイロンガーはガラ空きのオウガの腰に、渾身のワンインチパンチを放った!
地下格闘技時代に痛め、長い刑務所生活で悪化した腰に激痛が走った。それは、頭の先まで貫く様な強烈な痛みだった。
「ぐがぁぁ!」
オウガは転げ回り痛がったが、何とか立ち上がった。
「やるじゃねぇか、赤いの」
「アンタも相当な強者だな、黒いの」
「だけどよぉ、お前、なんか忘れてねぇか?」
「ん……真由美さん!」
「ふん、大成功っと。じゃあまたな、次はちゃんとぶっ殺してやるからよぉ。あーあ、腰いてぇ……」
セイロンガー、初の任務失敗となるのか!?




