正論(21)入居者
セイロンガーだ。
私の所有するマンションには、VVEIに勤務する女性が入居している。
入居時は確か保険会社に勤務していたので問題はなかったが、どうやらVVEIに転職したようだ。一度入居してしまうと余程の理由がない限り、更新を拒否出来ない。
尤も、家賃の遅れは無いし、近隣トラブルも無い。会えば挨拶を欠かさない入居者として何ら問題は無いのだが。
その朝、私はメールボックスのゴミ箱を整理していた。ゴミに出す前に入居者の宛名が付いたままのDMなどがあれば、ハンディシュレッダーにかけるようにしている。
「管理人さん、おはようございます」
先程話した江口麻里さんだ。
「江口さん、おはようございます。今日は早いですね」
「はい、今日は直行で仕事なので……」
「そうですか、ご苦労様です。お仕事頑張って下さい」
「管理人さんも、いつも綺麗にしてくれてありがとうございます。では、行ってきます!」
「行ってらっしゃい」
この様に人柄が良いので、まぁ勤務先がVVEIであっても問題無いと思っている。
今日は平日なので、真由美さんの送迎がある。
「セイロンさん、おはようございます」
「おはよう、真由美さん。では行こうか」
いつもの通学路、毎日の様に怪人が現れては真由美さんを攫おうとしてくる。ここまで執拗だとやはり五百旗頭家の令嬢である事が無関係とは言えないだろう。
今日もどうやら簡単に通学させてはくれない様だ。
珍しく複数の戦闘員が待ち構えている。そして、それを率いているのは……。
「待つんだよ!その娘をこっちに渡しな」
おっ!?
「江口さん……?どうしたんですか、その格好は」
声をかけてきたのは江口麻里さんだった。マンションを出る時はスーツ姿だったはずだが、今は黒いボンテージに編みタイツ、そして鞭を持っている。
「か、管理人さん……え、あの……おはようございます」
江口さんは顔を真っ赤にして驚いている。
「あぁ、おはようございます……江口さん」
「奇遇……ですね」
「奇遇……なんですかね」
「あのぅ、つかぬ事をお聞きしますが、管理人さんってもしかして、セイロンガーなんですか?」
「はい、マンション経営の傍ら、ヒーローもやっています」
「セイロンさん、この人、知り合いなんですか?」
「知り合いと言うか、ウチのマンションの入居者さんだ」
「えぇ……」
「あの、管理人さん。私、引っ越さなきゃいけない感じでしょうか?」
「いや、私も自分がセイロンガーだと言ってなかったので。今日はこのまま帰って頂けるなら、入居を続けて頂いて構いません」
「良かった、あのマンション気に入ってるので退去しろって言われたらどうしようかと。……ちょっと帰社して別件に変えてもらいますね」
「イーッ」
「イーッ」
「イーッ」
「イーッ」
「イーイーうるさいよ!あんた達!近所迷惑だろう?……では管理人さん、何というかすいませんでした」
「はい、でも江口さん、出来ることなら内勤に移動申請しませんか?」
「はい、上司と相談してみます……」




